2025年1月

愛などと言わずこたつに収束す
おのおのの想いに黙し冬の浪
シーバスの刻限までは赤い靴

阿川マサコ

舞台回っていきなり夕暮れの枯れ野
ジングルベルうきうきしない影連れて
裸木よわたしも腕力が欲しい

浅井ゆず

暮れのロードレース5km愛した人
うどん啜る一族郎党文化の日
佳き日には必ず一人鍋が良き

朝倉晴美

掃除機の吸ってしまった大晦日
言いつけを守ってくれぬ炊飯器
サトウサンをUSBに避難させ

石野りこ

高級なティッシュで仕舞う冬のハエ
胡蝶蘭いつも噂の向こう側
クラムボン答え合わせはしないまま

伊藤聖子

赤提灯見えないことにして帰る
ノンアルに慣れて来たころ雪が降り
粕汁で和む禁酒の十二月

伊藤良彦

七面鳥ひとりで囓るイブの夜
決断ができぬ心の杖が要る
閉店の札が貼られた頭蓋骨

稲葉良岩

アクロバットな琵琶湖だあれも観ていない
もち麦のふくれっつらを褒めそやす
地雷を踏んだ目覚しが鳴っている

岩田多佳子

では何処に行きたい双子座流星群
ひとつ捨てると楽になるボタン
勝手にしやがれと毒づいた君を許す

海野エリー

あっあれは僕の初恋雪虫だ
雪虫を見ている君がきっと好き
手袋が心を開く君の手で

おおさわほてる

わたくしの隙にするりとねこ動画
極月の神様少し焦り気味
廃番に近づいてゆく落書きペン

小原由佳

少女像の胸を横切る流星群
聖歌ながれて猫はうす目をあけている
人形の瞳から星があふれそう

笠嶋恵美子

折り合いがつかないN極ばかりで
加筆するページ時効は過ぎました
転調を続ける満月の吐息

桂 晶月

眼裏のすったもんだが散っていく
引き出しは空っぽどうぞお月様
蝉丸をみんな待ってるお正月

川田由紀子

優しさは真ん中に風抱いてから
かな文字で吊るされている係長
黒豆を頂く箸のカンタービレ

河村啓子

生真面目な活断層でよくずれる
魔女の杖撤廃してもまだ孤軍
泣けぬ日のタマゴボーロは罪つくり

菊池 京

さよならの形に脱いで去って行く
冷たさは硬さと同じ胸の石
貝ひとつさらば遥かな勇者たち

北川清子

初春の光の束を渡される
淋しい淋しいと窓を打つ夜風
額縁の隅で地団駄踏んでいる

黒川佳津子

去年今年プレイリストの春の海
次の間へたなびく彩雲の裳裾
投函す鶴の羽ばたく帯締めて

黒田弥生

クリスマスキャロルファミマの前で歯を磨く
律せよと納まりのいいチェロケース
打ち消し合う波 試技なきジャンプ台

河野潤々

雪の夜は甘めのジャズとほっとチャイ
こんな日はたわむれ日和だよと蟹
陽が昇るぐるりと思い巡らして

斉尾くにこ

とびとびに焼き印つける左心房
おしまいにする発情しない種
回覧板のように干支などやってくる

澤野優美子

いつ来るかわからなかったはずの蜘蛛
袋小路の山茶花の白い頸
百年に一度生まれてくるトンビ

重森恒雄

美しく秋刀魚を解(ほぐ)す独り飯
満天の星に濡れおり束ね髪
何人の私を売って貨車の音

杉山昌善

伸ばしたり縮めたりしてまた猫背
大声で叱る母の声はきれいで
わたくしのホウキは空を駆けめぐる

須藤しんのすけ

ああしたいこうもしたいと何もせず
きっぱりとノーだと言えてよく眠る
ゴウケツの順に旅立つ飲み仲間

田尾八女

おもかげをなくして小春日和かな
風花にかざす手 ほどけゆく思い出
未明にてさえざえとくるうのをまつ

たかすかまさゆき

AIが白紙委任を集めてる
ポケティッシュみたいに赤紙渡される
にににっとマングローブの並ぶ景

浪越靖政

ベランダに翼とテーゼ干しておく
濁ったり滲んだりしている事情
行間と余白に敷き詰める晴れ間

西田雅子

ほぐされて朝焼けになるのはあの星
うすずみ色の喜びだっていいはずよ
そこはそれ水はけのいい姑ですの

西山奈津実

空想の滞空時間冬苺
編みぐるみぎゅっと体温分かちあう
初旅は岬の先の美術館

芳賀博子

環境が大きく変わり第九聴く
ウルトラの母来て大地震わせる
山茶花の道で転ぶ身持て余す

林 操

AIが呆けてわたしは冴えわたる
どうしても長さが違うめおと箸
抱き合わせ販売いやいや抱かれてる

飛伝応

青空を探す深夜のコンビニで
「終わること」と全く違う「終えること」
想定外ばかり闘志が湧いてくる

平尾正人

薔薇一輪一人ぼっちも怖くない
空よ雲よちょっと惚けて幸せなり
アンポンタンその日は急にやってくる

弘津秋の子

ほんとかと詰められ水芸でしのぐ
にぎやかな暗渠を嗜んで大人
丁半のはざまでお待ちしています

藤田めぐみ

くす玉が割れて閉めの同窓会
詐欺を問う大海原と焼酎と
ともだちの一人が欠ける初日の出

藤山竜骨

穏やかな観音様に恋をした
ロカビリー酔いしれ揺れた二十歳台
妻一言じっくり凍みる冬の雨

堀本のりひろ

花柄の傘は竹刀の握り方
冬の底追い越してゆく清掃車
風は無であると証明してほしい

真島久美子

年末のガラガラポンと浮かれ出す
くら寿司のびっくらポンに遊ばれる
嬉しくてピンポンダッシュする夕陽

峯島 妙

黒猫にシャーと言われたホラー好き
群れないわエノコログサじゃあるまいし
ベーカリー閉店すきがまたひとつ

宮井いずみ

許されてピンクの薔薇の棘を抜く
あの人の噓をごっそり耳掃除
ぐつぐつぐつシュレッダーが揺れている

村田もとこ

来世までないしょばなしをしていくの
満天のひと粒ぼくのものにする
見られないことで完成するわたし

本海万里絵

テトラポット風の形になっていく
冬日向それぞれの息吐きながら
ノイズレスつるばみ色の曇り空

森平洋子

流星群を観たくて深夜起きている
ベンチには夜露に濡れた赤い靴
陽を浴びて胸ドキドキで散る銀杏

森 廣子

伐採音遠くに人のいる冬野
拝礼のかたちで受ける冬将軍
微笑みのスペアを冬のポケットに

山崎夫美子

不覚にもマムシの森に迷い込む
手品師の口から蛇が顔を出す
ピアスとかネイルの好きな若い蛇

吉田利秋

全能感共鳴新生児室
どれも綺麗にまとめがち雪あかり
不覚にも魔法にかかる12月

四ツ屋いずみ

地球救える偉い博士はいませんか
望まないことと向き合わされている
起きようか今日はいい日になりますように

渡辺かおる

調合の最中に友を見失う
墨染めの心にたぎる明日の雪
銀河光 渦巻くように咲くように

吾亦紅

会員作品を読む 2025年1月 西田雅子

第42回会員作品から

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