愛などと言わずこたつに収束す
おのおのの想いに黙し冬の浪
シーバスの刻限までは赤い靴
阿川マサコ
舞台回っていきなり夕暮れの枯れ野
ジングルベルうきうきしない影連れて
裸木よわたしも腕力が欲しい
浅井ゆず
暮れのロードレース5km愛した人
うどん啜る一族郎党文化の日
佳き日には必ず一人鍋が良き
朝倉晴美
掃除機の吸ってしまった大晦日
言いつけを守ってくれぬ炊飯器
サトウサンをUSBに避難させ
石野りこ
高級なティッシュで仕舞う冬のハエ
胡蝶蘭いつも噂の向こう側
クラムボン答え合わせはしないまま
伊藤聖子
赤提灯見えないことにして帰る
ノンアルに慣れて来たころ雪が降り
粕汁で和む禁酒の十二月
伊藤良彦
七面鳥ひとりで囓るイブの夜
決断ができぬ心の杖が要る
閉店の札が貼られた頭蓋骨
稲葉良岩
アクロバットな琵琶湖だあれも観ていない
もち麦のふくれっつらを褒めそやす
地雷を踏んだ目覚しが鳴っている
岩田多佳子
では何処に行きたい双子座流星群
ひとつ捨てると楽になるボタン
勝手にしやがれと毒づいた君を許す
海野エリー
あっあれは僕の初恋雪虫だ
雪虫を見ている君がきっと好き
手袋が心を開く君の手で
おおさわほてる
わたくしの隙にするりとねこ動画
極月の神様少し焦り気味
廃番に近づいてゆく落書きペン
小原由佳
少女像の胸を横切る流星群
聖歌ながれて猫はうす目をあけている
人形の瞳から星があふれそう
笠嶋恵美子
折り合いがつかないN極ばかりで
加筆するページ時効は過ぎました
転調を続ける満月の吐息
桂 晶月
眼裏のすったもんだが散っていく
引き出しは空っぽどうぞお月様
蝉丸をみんな待ってるお正月
川田由紀子
優しさは真ん中に風抱いてから
かな文字で吊るされている係長
黒豆を頂く箸のカンタービレ
河村啓子
生真面目な活断層でよくずれる
魔女の杖撤廃してもまだ孤軍
泣けぬ日のタマゴボーロは罪つくり
菊池 京
さよならの形に脱いで去って行く
冷たさは硬さと同じ胸の石
貝ひとつさらば遥かな勇者たち
北川清子
初春の光の束を渡される
淋しい淋しいと窓を打つ夜風
額縁の隅で地団駄踏んでいる
黒川佳津子
去年今年プレイリストの春の海
次の間へたなびく彩雲の裳裾
投函す鶴の羽ばたく帯締めて
黒田弥生
クリスマスキャロルファミマの前で歯を磨く
律せよと納まりのいいチェロケース
打ち消し合う波 試技なきジャンプ台
河野潤々
雪の夜は甘めのジャズとほっとチャイ
こんな日はたわむれ日和だよと蟹
陽が昇るぐるりと思い巡らして
斉尾くにこ
とびとびに焼き印つける左心房
おしまいにする発情しない種
回覧板のように干支などやってくる
澤野優美子
いつ来るかわからなかったはずの蜘蛛
袋小路の山茶花の白い頸
百年に一度生まれてくるトンビ
重森恒雄
美しく秋刀魚を解(ほぐ)す独り飯
満天の星に濡れおり束ね髪
何人の私を売って貨車の音
杉山昌善
伸ばしたり縮めたりしてまた猫背
大声で叱る母の声はきれいで
わたくしのホウキは空を駆けめぐる
須藤しんのすけ
ああしたいこうもしたいと何もせず
きっぱりとノーだと言えてよく眠る
ゴウケツの順に旅立つ飲み仲間
田尾八女
おもかげをなくして小春日和かな
風花にかざす手 ほどけゆく思い出
未明にてさえざえとくるうのをまつ
たかすかまさゆき
AIが白紙委任を集めてる
ポケティッシュみたいに赤紙渡される
にににっとマングローブの並ぶ景
浪越靖政
ベランダに翼とテーゼ干しておく
濁ったり滲んだりしている事情
行間と余白に敷き詰める晴れ間
西田雅子
ほぐされて朝焼けになるのはあの星
うすずみ色の喜びだっていいはずよ
そこはそれ水はけのいい姑ですの
西山奈津実
空想の滞空時間冬苺
編みぐるみぎゅっと体温分かちあう
初旅は岬の先の美術館
芳賀博子
環境が大きく変わり第九聴く
ウルトラの母来て大地震わせる
山茶花の道で転ぶ身持て余す
林 操
AIが呆けてわたしは冴えわたる
どうしても長さが違うめおと箸
抱き合わせ販売いやいや抱かれてる
飛伝応
青空を探す深夜のコンビニで
「終わること」と全く違う「終えること」
想定外ばかり闘志が湧いてくる
平尾正人
薔薇一輪一人ぼっちも怖くない
空よ雲よちょっと惚けて幸せなり
アンポンタンその日は急にやってくる
弘津秋の子
ほんとかと詰められ水芸でしのぐ
にぎやかな暗渠を嗜んで大人
丁半のはざまでお待ちしています
藤田めぐみ
くす玉が割れて閉めの同窓会
詐欺を問う大海原と焼酎と
ともだちの一人が欠ける初日の出
藤山竜骨
穏やかな観音様に恋をした
ロカビリー酔いしれ揺れた二十歳台
妻一言じっくり凍みる冬の雨
堀本のりひろ
花柄の傘は竹刀の握り方
冬の底追い越してゆく清掃車
風は無であると証明してほしい
真島久美子
年末のガラガラポンと浮かれ出す
くら寿司のびっくらポンに遊ばれる
嬉しくてピンポンダッシュする夕陽
峯島 妙
黒猫にシャーと言われたホラー好き
群れないわエノコログサじゃあるまいし
ベーカリー閉店すきがまたひとつ
宮井いずみ
許されてピンクの薔薇の棘を抜く
あの人の噓をごっそり耳掃除
ぐつぐつぐつシュレッダーが揺れている
村田もとこ
来世までないしょばなしをしていくの
満天のひと粒ぼくのものにする
見られないことで完成するわたし
本海万里絵
テトラポット風の形になっていく
冬日向それぞれの息吐きながら
ノイズレスつるばみ色の曇り空
森平洋子
流星群を観たくて深夜起きている
ベンチには夜露に濡れた赤い靴
陽を浴びて胸ドキドキで散る銀杏
森 廣子
伐採音遠くに人のいる冬野
拝礼のかたちで受ける冬将軍
微笑みのスペアを冬のポケットに
山崎夫美子
不覚にもマムシの森に迷い込む
手品師の口から蛇が顔を出す
ピアスとかネイルの好きな若い蛇
吉田利秋
全能感共鳴新生児室
どれも綺麗にまとめがち雪あかり
不覚にも魔法にかかる12月
四ツ屋いずみ
地球救える偉い博士はいませんか
望まないことと向き合わされている
起きようか今日はいい日になりますように
渡辺かおる
調合の最中に友を見失う
墨染めの心にたぎる明日の雪
銀河光 渦巻くように咲くように
吾亦紅