今日の一句 #498

青だった頃を覚えているインク  久保田 紺


古い手紙かハガキなど
読み返しているんだろうか。

青いインクで書かれた親しみのある文字。
いや、文字は
もうすっかり色あせているけれど
目で追うほどに
当時の青でよみがえってゆくよう。


さて差出人は誰だろう。

今の相棒、あるいは
かつての恋人か親友か。

そこは読み手にゆだねられつつ、
あの頃のふたりもまた、

きっと輝いていたんだ。
海のように、空のように
無限の青で。


本作、思いをインクに託した点が眼目。
時が移ろうことで、
むしろ記憶の一部は鮮烈になるのかもしれない。

ゆえに懐かしさもせつなさもいっそう。


(句集『銀色の楽園』久保田 紺/あざみエージェント)


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