白鹿を見かけたような気の迷い
坪井篤子
すでに決断したはずなのに、また迷う。
そのときの揺らぎが
「白鹿を見かけたような」と
幻想的に表現されている。
神の使いともいわれる鹿ながら
本作ではなにかの化身のように妖しくもある。
その美しい姿に誘われるように
ふっと森の奥へ奥へと歩んでいけば
すべてから逃避できるか。
けれど二度と戻って来られなくなるか。
先日、とある集いで
この句の深閑とした世界が話題となり、
東山魁夷の絵を想起したという鑑賞にうなずく。
と同時に、魁夷の絵ともまた違う絵が
想像のなかに新たに立ち上がり、
その絵の前にゆったりとたたずんだ。
(句集『花花 HANAHANA』坪井篤子/編集工房 円 2004)
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