2026年1月

曲がり角迷わず右へ直進す
散歩中フッと浮かんだ句は天へ
一瞬の虹よ出会いをありがとう

弘津秋の子

柔らかく噛んで施錠をしてしまう
極上にこだわる足袋はそっと去る
人類に貢献します皿洗い

藤山竜骨

どうやら君はきめかねている生き様を
目一杯頑張ったけどビリっけつ
ゆっくりと崩れ落ち行く自尊心

堀本のりひろ

はみ出したハートが迷う街のカフェ
神々が虹に降臨する夕焼け
この空を剥がし切れずに泣くカモメ

峯島 妙

あかつきの水面歩いている猫よ
なにを抗って横たわる狼
混沌の中にもしもが見えている

宮井いずみ

真夜中のフードコートで待ち合わせ
「会いたい」だ。ただの「会いたい」をちょうだい。
悲しみをちょっとよこせや1割ぐらい

本海万里絵

始祖鳥の舞い降りてくる多宝塔
ト書きには書いてないけどここでハグ
退屈の対角線に冬銀河

森平洋子

ヒュルヒュルと電線泣かせ師走風
撫でて舐め猫のオシャレは面白い
巡る季節に訪ね歩いた花の寺

森 廣子

完璧の向こうの沼に落ちている
大波小波隠しマイクが作動する
兵馬俑のようにサンタがやって来た

山崎夫美子

デイサービスの体操やって若返る
他界したいとこの分も自主トレを
こころにも手すりをつけて生きるんだ

吉田利秋

0時にはエール口ずさむコデマリ
定まらぬ枕と37度台
雪明かりまるで天使の箱庭の

四ツ屋いずみ

兄午年走れなくなり引きこもる
スカーフは蝶結びする 母白寿
大晦日言いようのない重荷あり

渡辺かおる

明日を待つ微熱ももいろ雪問答
雪の夜話たたずむ影はみな無音
ほのほのと白雪姫のいる窓辺

吾亦紅

木彫りの熊しんと冷たき十二月
葉ぼたんが並び師走が走りだす
コロナ禍はいつでしたっけ年忘れ

浅井ゆず

あんたもかい疲労骨折十二月
やなせと谷川読む泣く笑う十二月
彼よりもひとりが良くて去年今年

朝倉晴美

デパートの香り震えが止まらない
夫に似合うニットちらっと目に入る
ムリしても買っておきたいネコジャラシ

石野りこ

飛行機を掴む右手が空を切る
ページだけめくる時間が終わらない
掛け蕎麦を啜る平和な五分間

伊藤良彦

レノン忌に落とした夢が鳴り続く
窓からの街をミュートにする憂い
満月が圏外の夜を呼んでいる

稲葉良岩

琴線がカボチャの顔をしてわらう
ひと針をさして仕上げる乙年
ほどかれて口約束は野にあそぶ

岩田多佳子

いつまでが青春だろうか冬の薔薇
お静かに空の青さを吸い尽くす
ゆっくりとスクワット発芽するかな

海野エリー

着膨れにあなたの嘘は隠せない
オリオンに落ちていくのは象とぼく
雪虫の生まれたてですぼくの部屋

おおさわほてる

アメンボは見ていた水の裏の顔
隕石を待つ温室のイランイラン
冬のはじめの色鉛筆が折れている

大竹明日香

解かれたリボンのしわもクリスマス
静けさに負けてフクロウ真似てみる
極月の切る消す放すアカウント

小原由佳

喜びは千両の実の赤さほど
土鍋ことこと木綿豆腐は手でちぎる
窓に月髪染め終えて鐘を聞く

笠嶋恵美子

前世で歩いていた異国の市場
溢れる前にそっと掬う寂しさ
カーブだと知って一輪車を選ぶ

桂 晶月

身体中小細工をしてよく食べる
つまらない完璧主義に降る霰  
しゃあないと姉もだんだん薄くなる

川田由紀子

半ドアのままで水平線超える
水引籤引き明日を引いてくる
穴開ける穴埋めている黄金糖

河村啓子

今日の自転車もふたりのりふふふん
パパのりょうりはおいしいね、あんがと相棒よ
トビが鷹を生む、これはウチのことだよと

寒雷

両手から零れぬだけの今日がある
雪だるま一期一会の座標軸
ファンファーレ影絵の馬が走り出す

菊池 京

さっちゃんの家は遠くて落ち葉踏む
さっちゃんのアップルパイとアップリケ
アラジンの火にあたりましょさっちゃんと

北川清子

落丁のページに潜む真犯人
騙し絵のやたらアピールする駱駝
だってねぇ日を間違えたのはカモメ

黒川佳津子

リーフパイ跡を濁して立つ流儀
月齢とバイオリズムの黄金比
サファイアの冬青空を天馬駆る

黒田弥生

人格の違うところですれ違う
白くなる余白10%OFFでいい
JCのパブコメ餃子の文脈

河野潤々

せせらぎのサロンそこだけの浮島
ラピスラズリ水に溶けないパフェグラス
洋梨と和梨伏線未回収

斉尾くにこ

美しい冬の一部が揺れている
寝る間惜しんで渋柿の皮を剥く
やがて潰れる家の赤いカーテン

重森恒雄

君を抱くLEDの明るすぎ
財産は進駐軍のガムの味
羽のばし我もトンボも展翅板

杉山昌善

風花にかざした手からずれていく
明日には凍星となるひとといて
なお、今日の雨は秘密にしておくこと

たかすかまさゆき

三回に一回こだまに無視される
釉薬の流れにまかせ生きてきた
さようならわたしは右に曲がります

浪越靖政

改行を踏み外してるボンボンショコラ
エニシならあの木の下に埋めました
熟成を加速させてる桐ダンス

西田雅子

不在証明ハシビロコウに依頼
星を生んで死んでいくのは罪ですか
泣きたい日のこの青空は折っちまう

西山奈津実

お願いは銀紙にくるんで逃がす
晴れのみずうみを抜けてきた足あと
十日後のここは何番地になるの

温水ふみ

舞い降りたかたちのままで咲いている
冬蜂のぶぶと私へ引き返す
人間の器のはなし水餃子

芳賀博子

冬木立避難訓練粛々と
いくつもの波を乗り越え浮いている
ふるさとの更地に影のない私

林 操

旧姓で呼べば二人が返事する
慌てるなおかわり無料は逃げない
待合室から一人消え二人消え

飛伝応

引力にだんだん負けていく体
破るためにある校則も法律も
バラバラになった記憶のパスワード

平尾正人

会員作品を読む 2026年1月 山崎夫美子

会員作品第53回をお届けします。

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