椅子キキキ キキキキキキと胸そらす 笠川嘉一
「胸そらす」に小さく、あっ。
下五のこんなハネ方もある。
描かれているのは、ごく日常のほんの一瞬。
椅子にすわったまま、ちょいと伸びをしたら
背もたれが軋んだ、
ただそれだけのスケッチ。
なかなか年季の入った椅子みたいだ。
けれどその軋みに
主人公の背骨の軋みなど重なり、
また、深読みすれば
コロナ禍で外出もままならない毎日に
ココロもまた、キキキと軋んでいるよう。
そのキキキ。
一字あけてキキキキキキ。
と、耳にも目にも訴える技ありの軋み感。
そして「胸そらす」である。
まあ、いろいろあっても
腐らずに前向きにいかんとな。
そんなポーズにも見受けられ
この一語が醸し出す
明るいユーモアやペーソスや含羞といった
なんともいえない味わいに摑まれた。
掲句、「川柳びわこ」発行人の笠川嘉一さんが
今年の1月号に発表された作品より引く。
(「川柳びわこ」2022年1月号/びわこ番傘川柳会)
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