慰めてもらう出来立ての青痣
ジョーカーを使いそびれてまた負ける
言い訳を継ぎ足していく立葵
黒川佳津子
ひまわりのほとり哀しいほど無風
琳派屏風たたむこれより油照り
誰よりも親しくなれるチョコミント
黒田弥生
保健師に裸二貫を差し上げる
根号の屋根は丑三つ時に開く
ぼくがふいに描き君がふと消す闇
河野潤々
ほつれてる葡萄の骨に月十個
貰い水過ぎると涸れる夏銀河
真夏の夜風の海へとダイブする
斉尾くにこ
カラビナに通す真夏の猫の鈴
いくえにもたたむ新潟までの舟
たて書きのDuffyこの日反抗期
澤野優美子
約束に遅れることになる小雨
また来るというとき柿の実が赤い
雹は降りつづき十年経っている
重森恒雄
君なのか黄泉の国から糸とんぼ
人生の千秋楽で切る とんぼ
君が泣くとんぼ眼鏡の丸いまま
杉山昌善
二千回折った未来からの手紙
真ん中に切り取り線のある家族
三分を待てずにカップ麺ダイブ
須藤しんのすけ
君がいて金魚すくいと夏季講座
まっすぐに走ってひたすらを掴む
笑い皺戻り鰹のようなヒト
妙
摘要に炙り出される黒歴史
ファイティングポーズのままで窯を出る
きっちりとけじめをつける段ボール
浪越靖政
夕立の匂いを残してゆく線路
箱振って星の存在確かめる
なかったことにする 夏を裏返し
西田雅子
世界が消えるとき土はあるだろうか
だくてんのところにひそむところてん
かたむくと流れでるから崩れるから
西山奈津実
象さんが鼻でお祓いして爽気
秋の暮法被飛び出す雑居ビル
全肯定つるむらさきの箸休め
芳賀博子
一滴の精液自死を望まれて
孕む気配はなく水を抱く
双子に生まれ戦士になれず
橋元デジタル
木槿揺れ母は浄土に着いたのか
読経にスイングしてる母の霊
食べごろですよマスクメロンの独り言
林 操
台風は南に熱風は西に
老人が老後を実感できずいて
断捨離が足の踏み場で進行し
飛伝応
そのままにしておく君の手も足も
傘スマホ最後に落とす私を
変わらねばならない古希や喜寿の顔
平尾正人
夏休み片目のジャック尼暮らし
真っ直ぐに書けているかな日記帳
お留守番眠り薬を手放せぬ
弘津秋の子
いい気持ち飛び込み台で飲むワイン
塩辛い前戯を挟む裏表紙
淋しさの標本として祀られる
藤田めぐみ
在りし日の貝殻節が鳴っている
懸垂を三回 叔父の三回忌
K-POPドライフラワー甦る
藤山竜骨
まな板の鯉解体ショウで踊り出す
同窓会病気自慢で日が暮れる
プライドなんか捨てっちまえよ鳥になれ
堀本のりひろ
せせらぎへ首を放流してしまう
透明人間にシロップをかける
欠伸する河馬は緩んでなどいない
真島久美子
切れかかる絆へぎゅっとご飯粒
書き順を正しくすれば飛べるでしょ
猫じゃらしずっと振るのは無理だから
宮井いずみ
今世に未完のままの「畜生塚」
ご献茶に氷ひとかけ盂蘭盆会
半眼の仏が見ている後ろ創
もとこ
ひとりだとちょっと食べきれないパピコ
足音を聞いていたくてとまらない
夕焼けをひきとめたいの痛くても
本海万里絵
つながった胡瓜照れてるふりをして
鼻水も沸騰してる暑気中り
鬼灯のふわり西日の落し物
森平洋子
くるぶしの腐食がすすむ夏休み
結論をつぶやくメロンの網目
海岸線に横たわる夏の残骸
山崎夫美子
アリの巣に石でふたしてスミマセン
反骨のアリは一人で旅をする
大型バイク優雅に遊ぶおじいちゃん
吉田利秋
キスしてもいいよ 強気なオニアザミ
バタフライピー茶の底を避暑地とす
天の川にこぼす小数点以下
四ツ屋いずみ
サラスポンダ暑さになんか負けてやる
知恵の輪になったホースに勝ってやる
残額に合わせるような余命かな
渡辺かおる
鎮まらぬままに杖となる痛み
濡れながら心の窓の開く気配
陽炎となって新月走りきる
吾亦紅
巻貝の昔々は耳だった
汚れた手洗えば許す 神なのか?
人攫いお寺の鐘はゴンと撞く
阿川マサコ
焼きなすのカードの次は冷奴
三界図あの世も密で妖しげで
何が言いたかったか盆の台風
浅井ゆず
瀬戸内はちくわてんぷらほどの愛
即金百万南予の売り地星銀河
永遠の恋人君は幼馴じみ
朝倉晴美
収穫祭まずはふたつのミニトマト
ビスケットは食べた空き缶は捨てた
月がいる 哀しみの会ですものね
石野りこ
長生きをしたい世界がやって来る
空気中にずっと舞ってる紙吹雪
ひとりぼっちの家族会議が始まった
伊藤聖子
水割りの水もかつてはにわか雨
豆を煮る鍋と私の手のひらと
夏という試練が過ぎて次は冬
伊藤良彦
生きている理由忘れたが問いはある
皿洗う流れる泡の色は鬱
ドリンクバーみたいな話ただ眠い
稲葉良岩
輪郭の欠けた活字の実をひろう
575にざっくり手首つかまれる
骨組みが多くてきしむ誕生日
岩田多佳子
意のままにならぬ舵輪と話し込む
西瓜爆ぜそう午後のロードショー
抽斗に青春18切符今も
海野エリー
蝉の殻憧れいっぱいだった頃
この街は空蝉のままないている
表札は空蝉でした君の家
おおさわほてる
肯定す琵琶湖マイアミ浜の風
昨日から居座っている絵空事
言うことを聞かない酢飯夏強し
小原由佳
台風一過てっぽう百合を抱き起す
台風の目から鱗が落ちてきた
台風に覗き見される裏帳簿
笠嶋恵美子
モロヘイヤ叩く延長戦になる
輪になって背中を流す半地下で
三度見る財前教授沁みる夏
川田由紀子
青春の栞にトビウオの鱗
綿毛飛ぶサーチライトをすり抜けて
屈折を覚えラムネ玉卒業
菊池 京
秋刀魚焼く明日は港に行ってみる
湿原の朝に漕ぎ出す二人艇
いずれまたハマナスの頃会いましょう
北川清子