白紙切るオペラの絵具さあさあさあ
流れゆく留まっている水の時間
今この炭の黒終止符を打て
北川清子
どうしようもない直角の寂しさ
鱧天でも作ろ 月が美しい
殺し文句の切れ味試したい月夜
黒川佳津子
桃鈍く倦んで同心円の芯
避雷針だから明日もそっぽ向く
カモメ舞うプラチナ線の影曳いて
黒田弥生
大数の法則中の毛穴のかたち
落ちこぼれてこぼれ落ちる時間軸
立ち往生するダフ屋を助けたの
河野潤々
雨粒は雲ぎんこうでドロップス
長雨の両手に抱かれねむる午後
金鳥の渦巻きチャレンジはつづく
斉尾くにこ
私家版の整理ついでにルートイン
御無沙汰は目分量だしおこげだし
すうどんでっせどうでもいいをひたかくす
澤野優美子
初盆に詫びるでもなく虻が来る
蓬と別れ鮒寿司の嫁に来る
勝てばよいだけのゲームに風が吹く
重森恒雄
本心を試されているキリギリス
半熟になってしまった我が記憶
地球から八十億がこぼれます
杉山昌善
口移しした氷のトゲを削りおり
動物の鳴き真似をする禁猟区
たぶん今、高度三万フィートの私
須藤しんのすけ
アルプスハイキング太ももは初級
独り言チーズフォンデュに絡ませる
時を食み優しい顔の牛の群れ
妙
寝落ちして見知らぬ街へ来てしまう
よくごらんハンサムなスズメバチ
オノマトペ並ぶ初秋のフルコース
浪越靖政
静けさの泡立つ朝の交差点
風になる話ばかりをする人と
むらさきの歴史を語るムラサキシキブ
西田雅子
シンバルをひとつ打つためのいちにち
吸盤を持っているらし秋の嘘
かきまわしてもかきまわしても私
西山奈津実
下描きというか面影というか
そこまでは疎んでおらず後の月
秋桜博士もさびしがっている
芳賀博子
チョコがかかっていなければ偽物だ
怒りに満ちた夜風で裸体を研ぐ
お気に入りからうさぎにされる
橋元デジタル
萩揺れて元に戻れぬ白狐
ひたすらに我が道を行くけもの道
まあまあと豚バラ肉のような人
林 操
戻っては来れぬ冥土で踏むたたら
大相撲番狂わせにヒマがない
秋は来ましたか冬は来るのですね
飛伝応
推し活にはまる妥協は許さない
飲み込んだ言葉暴走する正義
演じ続けるキャラは自分を守るため
平尾正人
明るい目暗い目秋の風ふわり
高卒だと語る80歳の友よ
お隣りの名が出てこない立ち話
弘津秋の子
らしくない饒舌始まってしまう
待ちわびた記憶ひとりの露天風呂
遠いあなたをでろりと剥げた夜に埋める
藤田めぐみ
おばさんと鯵は開いたままがいい
暑くって死にそうですと棒アイス
目標に十歩足りないスマホ振る
藤山竜骨
大仏様大きなお口子守歌
診察待ち悲喜こもごもに目が泳ぐ
AI増えて考えぬ葦増加中
堀本のりひろ
ショッキングピンクをやんわりとディスる
探偵の目をしたシロナガスクジラ
害獣に過ぎぬ三面鏡の顔
真島久美子
ぢいちゃんの炒り子の匂いするジョーク
ぬかるみにはまる素振りの千日目
握りしめた手の跡残るほうきの柄
宮井いずみ
難産の子を捨てに行くゆに句会
手放したピアノに出会う北空港
寺巡り良からぬ事を思いつつ
もとこ
お弁当を食べたり風を飲む正午
筆圧で波打っているきみなでる
仕方ない半透明の足である
本海万里絵
休刊の知らせが届く秋一葉
手品師と腹話術師の住む炉釜
星の飛ぶ跡形もない予定表
森平洋子
まだ青いどんぐり家族の会議録
極まりしわれら木洩れ日同好会
晴れた日の森に主人公がいない
山崎夫美子
コインロッカー引換券が見つからぬ
若ものに案内されて着くホテル
血圧を測った浪江町役場
吉田利秋
逃げ水の温度そのまま北へきたまえ
いざよいの虫聞きもっか公募中
晩鐘にアレグレットのソルベ添え
四ツ屋いずみ
耳を当て犬の心音聴いている
命の音押し出し巡るドドドドド
懸命に生きる一緒にいつまでも
渡辺かおる
十薬の白さは亡母の伝言版
道なりに曲がりくねっている主張
金色にはじまり雪になるこの世
吾亦紅
夕暮れは鹿のかたちを追いつめる
表現の荒野横顔に目がふたつ
喪にふくす夜のパンには缶コーラ
阿川マサコ
進撃の巨人も止める葛の蔓
草の実の転地転職お手のもの
阪神のアレと私のアレとの差
浅井ゆず
月の客リュートの弦が切れている
寿ぎも会計も拒み敬老の日
曼珠沙華あの子もこの子も夢の中
朝倉晴美
低音の足りぬ身体にビターチョコ
大阪のおばちゃんのアメ流れ星
何もかもワカランなったヴァイオリン
石野りこ
秋の風離婚届の証人か
占いのとおりに生きる秋の虫
秋の空誓いの言葉嘘にする
伊藤聖子
心臓を止めて命の声を聴く
脈拍の音で生きるを許される
病院の壁を再び見るなかれ
伊藤良彦
書き上げた句箋で文字が欠伸する
ミーハーも月曜の朝スーツ着る
価値観を問い詰めてきた逆さ富士
稲葉良岩
詩よりも深くアルタイルかもす息
さぁここでビロード状に差し掛かる
アルファ波たまる下駄箱あけ放つ
岩田多佳子
暑いとだけ言葉いらずの亜熱帯
秋風はたぶんB面に紛れたよ
百までは浮かばぬしたいこと一覧
海野エリー
立秋と言ってたちまち馬となる
着信は確かに露草からだった
サイコロを割れば銀河の見え隠れ
おおさわほてる
ビル買いたいビル解体とうねる街
坂道に心理テストが置いてある
忘れてもいいけど月は出ていたよ
小原由佳
合歓の木を揺すり続ける流星群
言い訳のずしりと重い砂袋
雲海へ萎えた心を解き放つ
笠嶋恵美子
秋冷や拾い集める銀杏臭
一人でも月がきれいと声に出せ
神と見る深夜のテレビショッピング
川田由紀子
円周率は3 男子エコバック
多数決どっちなんだよ曇天よ
視野狭窄ドミノの列と気付かずに
菊池 京