口笛のこつは次郎に伝授する
北野岸柳
なぜ太郎ではなくて次郎なんだろう。
たとえば長男である太郎には
もっと大事な「家」のことなど伝えているのかも。
実際、口笛のこつなんて会得したところで
カネにもならず、社会のお役に立ちそうもない。
でもそんな口笛をこよなく愛し、
上手に吹けるのがささやかで秘かな誇り。
だから、次郎には伝授しておくと。
はたして口笛のこつとは、同じように
非生産的でありつつ、何か生きていくうえで
とっても大切なものの象徴のようでもある。
出典は北野岸柳(1946ー2023)句集『男の紙芝居』。
なかなか入手の叶わなかった氏の第一句集が
先日、青森へ川柳旅をした際、
ふらっとのぞいた古書店に並んでいた。
長らく青森県の川柳界を牽引してきた人気作家の句集に
その青森で出会えたのも何かのご縁というか。
著者37歳のときに編まれた句集には、
みずみずしさと、良い意味での老成がブレンドされていて
味わい深い。
北辺の鴉は阿呆とは鳴かぬ
ピカソの絵昇給わずか秋刀魚の眼
追いかけてくるから夜へ身構える
犬と眼が合って履歴書書き直す
同じ酒飲んで泣く奴笑う奴
(句集『男の紙芝居』北野岸柳 1983)
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