金魚鉢さびしい光掬い取る
ひまつぶしの暇はなんだか万華鏡
花菖蒲空気を読まない人になる
森平洋子
体内をせせらぎにして詩歌集
掛け違うボタンのような偏頭痛
影踏みの影がないのにゴング鳴る
山崎夫美子
おばあさんに席譲られた夏のバス
不審者から女性守った武勇伝
セルフレジてきぱきできるお爺ちゃん
吉田利秋
しょぼくれた細胞に効くクロモジ茶
まな裏の光は粛々と初夏で
戻るとしたらどの辺りかと獏は聞く
四ツ屋いずみ
サワガニの命預かる春休み
三匹のメダカ名前はブ・フ・ウです
離れると寂しがるのは犬と母
渡辺かおる
昨日から明日を/過去から明後日を
迂回するたびについてくる水たまり
立ち尽くす 夏のもようの防寒着
吾亦紅
立ち泳ぎ父は困っていたのだな
蝶の羽破れてピンに留まれり
脱ぐことは潔き哉水中花
阿川マサコ
柿若葉きらきら老いを寄せつけず
そうよなあ草にも生える権利ある
語るのをいつから止めたのか雨は
浅井ゆず
退職は新緑が綺麗で決めた
同級生茶道家元と呑む愚痴
ブラジルへ行ってみたいな四回目
朝倉晴美
買い忘れFe入りミルク自由帳
レジ横のチョコレートたちの不機嫌
湿り風はゼロをちっちゃな1にして
石野りこ
戦争を止めるためには鍋が要る
砂浜と波は妥協をしてばかり
ドローンも平和のためにあったはず
伊藤良彦
つけペンのインクに過去の嘘混ぜる
雑巾にされた記憶を干す老後
極楽へ繋がっているマヨネーズ
稲葉良岩
おもいでのオセロゆっくり翻す
その線の端をつかんだかもしれん
むずかしいもの蛇口から出てこない
岩田多佳子
サボテンの花みち連れに夕暮れる
降参はしない蜥蜴のまっしぐら
キミが居て蝶が羽化して会話して
海野エリー
水たまり覗いてみたら夏野原
自販機のボタンを押したら夏の蝶
夏野からあなたの花を届けます
おおさわほてる
夏色のしずく おはよう小鳥たち
小鳥からもらった夏のオノマトペ
苦いわよわたしの夏を噛っても
大竹明日香
大きめの服で夜風をいただきに
掌の痛点に乗る姉の鳥
ご自由にお待ち下さい駅の隅
小原由佳
瘡蓋をそぉーっと剥いでいる忌明け
ぽっかりと池に浮かんでいた時間
傷は癒えたかためらいがちに昇る月
笠嶋恵美子
後悔はしない 泳げる水がある
始まりも終わりも丸く切った爪
聞き上手に徹する牛乳プリン
桂 晶月
掌にクワガタ乗せて林住期
ひらパーの幽霊時給二千円
青もみじ巾着だけを持って出る
川田由紀子
たしなみを忘れた雨のスラックス
米櫃が遺言状をしたためる
あんぱんの餡と暗とを詰め替える
河村啓子
断捨離の離に仕分けするマヨネーズ
口ずさむもう戻れない駅メロを
この夏を遊ぶ滴を吟味する
菊池 京
薔薇咲いてバラバラの身も纏って
やっぱりね三光鳥が鳴いたでしょ
人の愛感じる時は別れの日
北川清子
迷う日をスイと横切る初燕
別れの理由興味津々カフェテラス
丸木橋ぐらり私と一輪車
黒川佳津子
瞑れば茅の輪に沈む尾びれの朱
ワイパーのビビり交信途切れがち
ハンドルの遊びほうたる出ておいで
黒田弥生
ウイロウノ癖ニコイズミシンジ漏
AIにKYくちびるに備蓄米
I don’t like swing this テンポの遅いワルツとか
河野潤々
あっ……声の破片が煌めいた
ミリバール優しい雨であったころ
カンパニラ愛は増産できなくて
斉尾くにこ
山門不幸紫陽花に蝸牛
悟るとはもう振り向かぬ橋のこと
五月雨集め本堂を出る小舟
重森恒雄
中指は礼儀正しく折り曲がる
玄関に置き配された姉の恋
つながれて奴隷のごとし千羽鶴
杉山昌善
元カレのシャツが何だか温(ぬく)いのでパジャマみたいに包まれてたい
人間の入れ物に私を入れる
マティーニをシェイクで二杯くれないか
須藤しんのすけ
さみだれにさみしくないかと問われている
梅雨に入りきみの不在に入り浸り
まずは雷から真似てみる
たかすかまさゆき
さあどうぞ二重括弧を外されて
訳ありのリンゴの話聞いてやる
ファスナーが噛んでサヨナラ言いそびれ
浪越靖政
バックパックに木陰と時間持ち歩く
合鍵なら預けましたよ朝顔に
逡巡のひかりの中の夏帽子
西田雅子
鋭角は脱いで、カナシイあげるから
三日月を私の海に沈めるな
(明朗なひと)と右腕にタトゥー
西山奈津実
眠れない子にあげるためのナタデココ
オパールになるための列はこちらです
かなしみのとなりに椅子をひとつ置く
温水ふみ
日日草いちいちおめでたい私
熱帯魚推論すぐに行き詰まる
蓮の白すべて茶番でありましょう
芳賀博子
デラシネになってふるさと折りたたむ
カタカナ語集めて燃やす脳内で
枇杷の実の下で靴紐直さない
林 操
起きてから寝るまで/寝たきりまでの距離
飛行機は落ちるミサイルは落とす
年金のATMにお辞儀して
飛伝応
味変をしようケチャップマヨネーズ
スパイスを加える空が高くなる
二日目のカレー美味くて恐ろしい
平尾正人
一対一 鴉と話す散歩道
「賢き野ばら」鶯に返す歌
自治会の先輩一人ずつホーム
弘津秋の子
悪党どもはカフェインにしてやられ
死に下手が嗜む紙コップのココア
目を閉じて積乱雲を所望する
藤山竜骨
のんびりと活きておりますナマケモノ
なかまはずれ小二の頃は利かん坊
目に入れても痛くないのよ曽孫ちゃん
堀本のりひろ
失恋という傷口のフルーティー
紫陽花の下でASMR
夕闇の深さへサンダルを落とす
真島久美子
図書室の筆談コツンと長い影
付け爪のずるいところが欠けている
プロジェクトX走りながら生きた
峯島 妙
ジューンドロップ真ちゃんの青いシュシュ
三線の風がかなでる芭蕉布
ポイントを切り替え海をめざす旅
宮井いずみ
戦争は死語とはならず半夏生
人生の放課後に行く京の旅
木馬からドローン飛び出すAI戦
村田もとこ
ビニールの傘にひかりをあつめてく
ところにより神さまみたいなものが降るでしょう
サングラスの向こうで君がいなくなる
本海万里絵