2021年9月

元気かぃにゅるっと笑う水たまり
新しい世界はいつも向かい風
青りんご風の匂いに身構える

吾亦紅

垂線の足になるまでパラサイト
疎か密かどこかが沼化よるの匙
かなかなかな平坦な視野抜けられず

阿川マサコ

万物への愛が足りずにグルーミー
枯アジサイ即身成仏とはかくに
輝いている百歳は肉食派

浅井ゆず

瀬戸内のかーさん僕はカミングアウト
気に食わないあいつアマゾン河満つ
パリの日本人私の好きな幼馴染み

朝倉晴美

雨風に打ちのめされているいつか
未来像描き直さねばピーターパン
太陽はいずこどん底の向日葵

海野エリー

嫁ぐ日に露草ぽんと咲きました
ひまわりは空のボタンだ一列だ
夕焼けがうちの窓だけ残ってた

おおさわほてる

噛むんじゃったら自分の脛をかじんしゃい
阿呆にもなれず馬鹿にもなれず秋になる
プライドは半透明のゴミ袋

岡谷 樹

原点といえばあの日の卵焼き
何もかも背負って地図は真っ赤っ赤
リズム感なくした雨が打つわたし

小原由佳 

キャタピラの跡が残っている背骨
遮断器をうっかり越えて母になる
馬の背を越えて霞になりました

笠嶋恵美子

新月やボトルシップが出航す
逃げ道にタルタルソース添えてある
ちらと見る川上さんも転けている

川田由紀子

なんでゴーヤの機嫌とらんとあかんのよ
小数点以下切り捨ての蕃茄達
一領の衣や青色朝顔

河村啓子  

金銀の折り紙兄ちゃんはズルい
残暑なき里で葉脈透けそびれ
小石置く一筆箋の四行目

菊池 京  

蚊柱のような迷いとゆく晩夏
浴衣の金魚があなたに逢いたがる
選択を迫られている立葵

黒川佳津子 

訓令式ですか私は風です
感染リスクだったイントネーション
ジュテームは罰ゲームかガムテープか

河野潤々

シャワーから噴水となる蝉しぐれ
欲望の迷路へ湧き立つ雲霧林
住めぬけど行きたい街に住んでいる

斉尾くにこ

はつなつの寝物語に負けている
お空がゆるむ助手席のくちびるに
恋慕とやハーゲンダッツ濃苺

澤野優美子 

殺すのはあまり得意でない笑顔
痩せるのは海馬だけでもなくて春
暗殺現場にいた鯉の胃の中

重森恒雄

静脈のざわめく男みーつけた
どうしても喉を通らぬ異邦人
ゴシック体の男になっている真夏

芝岡かんえもん 

雨乞いをするかのように君を乞う
負け犬の尾にも優しい芒梅雨
雨の日のお迎えなんて絵空事

昌善

海の日に海の向こうの歎異抄
目詰まりに右往左往の油照
線香花火恐縮ですとお辞儀する

妙 

衣擦れの色とりどりの卵子達
おひとり様ですか?虹に通される
乱れる 船でも漕ぎに行こうか

千春

空き瓶に投げ入れられている晩夏
午後からは水平線になるつもり
推敲の途中で秋に呼び出され

西田雅子  

遁走のフォーム正しく秋の風
LINE通話7分5秒虫時雨
アニソンのサビとめどなき流れ星

芳賀博子 

バランスボールに乗って町まで買い出しに
あれも売り切れこれも売り切れ黄昏る
それでもとせっせせっせとノックする

林 操

メダルの色は問わず汗色涙色
歩きスマホ誰も五輪を見ておらず
お天気のなぜを訊かれている地球

飛伝応

平成のシャフトが折れたまま令和
宣戦布告したか乾電池が並ぶ
例として平方根を持ち出して

平尾正人 

よく笑う母は語らず原爆忌
雨上がりクマゼミくんと虹を見る
八月の隠密ですか黒マスク

弘津秋の子   

道中で磨く急所をはずす芸
甘やかす甘えるジャズはあいみての
井戸あふれこんなに淋しかったのか

藤田めぐみ 

3人のピエロが北を向いている
古希だってユーチューバーで再起する
真っ先にやって来たのは河内節

藤山竜骨 

残夜とは金星みっつ浮かぶ空
こんな日は金箔入りのチョコボーロ
晩夏へララバイしゅわしゅわレモネード

宮井いずみ

あの夏と茜の雲をまといたい
わたあめがほどく小さいころのこと
幻の城みたいだよ昼の月

本海万里絵  

ドラクエの序曲でいこう日照り道
帰省の規制に奇声で気勢あげ
ゼンマイを巻いて私を解き放つ

森平洋子 

追われるように炎天の乳母車
すいか畑の番人として青い空
ひとしきり眠る樹海を抱いたまま

山崎夫美子

愛犬に噛まれ孫には無視される
スナックにひろちゃんがいた三宮
わたしには戒名なんかいりません

吉田利秋   

総 評 2021年9月 芳賀博子

会員作品第2回をお届けします。

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