2026年11月の会員作品を読む

2026年11月   森平洋子

今月の風

トリカブトくれた景品交換所
海野トト

「トリカブト」という上五にまずドキッとする。花は美しい紫色だが、致死の毒性を持つ猛毒植物。それを、景品交換所でもらったという不穏な展開に、さらにドキッ。商店街でガラガラを回したら、「トリカブト、大当たり〜」と威勢のいい声が響く場面が目に浮かぶ。見慣れた日常が、じわり歪んでいくような不気味な余韻が残る。

手のひらの海に溺れている予定
吾亦紅

手のひらから、海へと広がるスケール感が雄大。そこに、「溺れている予定」という意外な組み合わせがミステリアスで、好奇心をそそられる。たとえば、抱え切れないほどの課題の海に溺れてしまいそうな作者自身のことか。あるいは、大好きな推しの沼に引きずり込まれる予感かも。リリカルな言葉の向こうに、さまざまな情景が見えてくる。

妖怪図開いてフィッシュ&チップス
川田由紀子

日本の妖怪なら、煎餅やお団子が似合いそう。でも、ここでチョイスされたのは、フィッシュ&チップス。ということは、もしやこの妖怪図、欧州のゴーストやヴァンパイヤやらを収めた一冊なのかもしれない。民話や伝説に描かれた怪物たちはどこか滑稽な趣があり、見飽きない。パブの片隅で妖怪図を開けば、ビールもどんどん進みそうだ。

脳みそを耕してくれトラクター
吉田利秋

脳みそとトラクター、柔と硬の意外な組み合わせにまず目が留まる。そして「耕してくれ」という叫びに、わかるわかると頷いた。刺激のない単調な日々では、脳の機能も鈍っていくばかり。ここは一つ、トラクターで豪快に掘り起こし、脳のパフォーマンスを爆上げしたい。脳の衰えを嘆いているのに、なんだか元気がわいてくる、底抜けの明るさがお気に入りだ。

美しい紐で括っておく鎖骨
重森恒雄

繊細なリトグラフのような映像が立ち上がる。美しい紐と鎖骨の取り合わせは、胸元の華奢な美しさをそのまま留めておきたいというフェティシズムか。あるいは、鎖骨の下にある肉体までも守りたいという比喩的表現か。それとも、理科室の人骨の標本を美しい紐で彩ったのだろうか。詩的で耽美な表現にしばし思いを巡らせた。

ふわふわのお寿司になったばあちゃんち
下野みかも

「ふわふわのお寿司」という表現がまず楽しい。ふわふわの煮穴子や卵を散らしたちらし寿司か、せいろで蒸した温かい蒸し寿司か‥。想像を膨らませていたら、それが「ばあちゃんち」だという展開に意表をつかれる。きっとこの日は、誰かの記念日。子どもや孫が集まり、お祝いのお寿司を囲んでわいわいがやがや。触れ合う肌の柔らかさや温もりまで伝わってくるようだ。

目の前で揺れるチャームやひよこの手
宮井いずみ


リュックやベビーカーにつけるチャームが、どんどん巨大化しているように思う。電車に乗れば、ぬいぐるみのチャームをたっぷりぶら下げた女子高生やママの姿を見かける。この句も、そんなワンシーンではないだろうか。揺れるチャームに手を伸ばし、にこにこ笑う赤ちゃん。「ひよこの手」という比喩に、作者の温かい眼差しが詰まっている。

気がつけば太平洋の水すまし
杉山昌善

はてしなく広がる太平洋と、豆粒ほどの水すましの対比が鮮やか。あるとき、ふと、太平洋の水すましと言えるほど無力な自分に気づき、愕然としたのか。いやむしろ、そんな自分の存在に肩の荷が下り、意気揚々と大海原へ繰り出そうとしているのではないだろうか。そうだ、身軽な水すましになって、あとはスイスイ水の流れに身を任せればいい。

花梨酒の蓋がたやすく弱音吐く
山崎夫美子

「花梨酒」という美しい響きが素敵。10月から12月が仕込みの時期で、飲み頃は半年後からだとか。その蓋がたやすく、というのは、ゆるゆる開いてしまうということか。まだ早いとわかっているのに、誘惑に負けて蓋を開けてしまう作者の人間味あふれる姿が重なり、思わずほっこり。「弱音吐く」という着地には川柳ならではのおかしみがあり、ほろ酔い気分が後を引く。