椿の葉それかひかりに触れている
霜柱踏んでこどものころに行く
砲撃がぜんぶポン菓子だといいな
本海万里絵
断雲や君のいない朝を歩く
湯上りの着信音ゆれる寒夜
雨柱もう泣く準備はできている
森平洋子
裸木の瘤のあたりのイ短調
野仏にまだ届かない冬帽子
風鐸のきしみ確かに病んでいる
山崎夫美子
石の犬野山を駆ける虎になる
大仏の腰に金色サポーター
一度だけ人を殴ったことがある
吉田利秋
美しい仕上がり順に舞う紅葉
夕焼けを呑んで元朝の家並み
壁際のトンボが光る今朝の段
吾亦紅
どんな眼をして白鳥を匿うか
わかるまで言う掛け算の三の段
人生のフリル背中を駆けのぼる
阿川マサコ
たこ焼きのくるりくるりと十二月
ゆく年よ記憶に残るのはボッチャ
読点がつづけば冬の空模様
浅井ゆず
マンゴー降る絵手紙着く夜失恋など
鬼籍には何人晦日の話題
ひたすらに八頭ひたすらに芋煮
朝倉晴美
新月にハッピーエンドの旗立てる
冬林檎ことばに惚れただけのこと
記録にはきっと残らぬ孤独の孤
海野エリー
さよならと落ち葉を一緒に掃いて朝
初時雨あの日と同じ赤い傘
ペッパーがうなだれているオリオン座
おおさわほてる
暗闇にボソッと天使現れる
カウントダウン点灯しなきゃ叱られる
負けず嫌い元旦だけは日本人
岡谷 樹
ストップがかかる大きなレールから
それとなく空気清浄機で消した
居酒屋の椅子が今夜は慈悲深い
小原由佳
ハンガーに悟られぬよう香を薫く
指の傷癒えないままに渡る橋
被写体の薔薇ほど我慢づよくはない
笠嶋恵美子
飛び石を跨いで京都府警来る
雑炊になってようやく名を明かす
行く末を引っ張っていくアホウドリ
川田由紀子
冬天の墓石 三代を凍らせる
発情を予定している鳩時計
石蕗は信号無視を繰り返す
河村啓子
ストローが必要悪となる 揺れる
チューニングずらして向かうバスの列
給水所探しあぐねて八の段
菊池 京
檻の前舌舐めずりの虎といる
ホットカーラーぽこぽこ咲かせ弾む朝
味のある大きな文字で来る賀状
黒川佳津子
漢字ならたぶん神戸にかなわない
老害の芽を摘む観覧車の降り場
転職を望むか明け方の尿意
河野潤々
意外にも柔和なきみの曲げわっぱ
夜のふところ活性化する脳作業
ライオンの歯型を付けたヌ―が行く
斉尾くにこ
善良な市民にくれる鶏の皮
ギンビスのどうぶつたちの成長痛
あたらしい雪のひかりをかいでいる
澤野優美子
五条の橋に引っ掛かる実の祖母
蔵のある家の貧しさ貰い受け
ポンと開く傘が自慢の祖父と叔父
重森恒雄
バク転をする柔らかいあの日まで
波の数だけザザッとひいているわたし
ブーブー紙でいろんな僕を鳴らします
芝岡かんえもん
まだ何か出てくるかもとポチが鳴く
潜水を一度で懲りたミズスマシ
振り払うおためごかしの背後霊
昌善
降り方を内ポケットにしのばせる
雲を割るメリーポピンズに会いたい
ピアスさえできないくせに愛なんて
妙
どうにかしなきゃ鮭のくびれ
私の中の蜜柑私を引きちぎる
稲妻が私に父を呉れました
千春
ひんやりと育つ 一月のささめき
骨片のかすかに匂う冬桜
華麗な散逸 椿の予告編
西田雅子
スカラベなら如何にころがす初日の出
母由来みかん由来の楽天家
植生に変化のきざしたるこころ
芳賀博子
格言がやたら目につく十二月
ひとり去りふたり去りして十二月
このカーブ曲がり切ったらドラえもん
林 操
民主主義その国籍を問う会議
その必死さで自転車を雨ん中
終活がところてん器で進めない
飛伝応
目で聞いて耳で見ている神無月
足腰が強くて人を愛せない
濡れている言葉スマホのメモ機能
平尾正人
部分日食こっそり齧るチョコレート
お月さま呪文忘れて店ざらし
開けごまハ短調から始めます
弘津秋の子
勝手に決めんな 足元の波に星
あいまいな瞳に熱をのせてくる
下手なりに丸書けてきてからオトナ
藤田めぐみ
しっかりせい皇帝ダリア抱き起こす
一升瓶四本提げて道の駅
自販機のお国訛りの音を買う
藤山竜骨
廃墟めくビルで売ってる宝くじ
終電の女のくたびれたグッチ
よれよれのパジャマ夢にはアルマジロ
宮井いずみ