2022年1月

椿の葉それかひかりに触れている
霜柱踏んでこどものころに行く
砲撃がぜんぶポン菓子だといいな

本海万里絵

断雲や君のいない朝を歩く
湯上りの着信音ゆれる寒夜
雨柱もう泣く準備はできている

森平洋子

裸木の瘤のあたりのイ短調
野仏にまだ届かない冬帽子
風鐸のきしみ確かに病んでいる

山崎夫美子

石の犬野山を駆ける虎になる
大仏の腰に金色サポーター
一度だけ人を殴ったことがある

吉田利秋

美しい仕上がり順に舞う紅葉
夕焼けを呑んで元朝の家並み
壁際のトンボが光る今朝の段

吾亦紅

どんな眼をして白鳥を匿うか
わかるまで言う掛け算の三の段
人生のフリル背中を駆けのぼる

阿川マサコ

たこ焼きのくるりくるりと十二月
ゆく年よ記憶に残るのはボッチャ
読点がつづけば冬の空模様

浅井ゆず

マンゴー降る絵手紙着く夜失恋など
鬼籍には何人晦日の話題
ひたすらに八頭ひたすらに芋煮

朝倉晴美

新月にハッピーエンドの旗立てる
冬林檎ことばに惚れただけのこと
記録にはきっと残らぬ孤独の孤

海野エリー

さよならと落ち葉を一緒に掃いて朝
初時雨あの日と同じ赤い傘
ペッパーがうなだれているオリオン座

おおさわほてる

暗闇にボソッと天使現れる
カウントダウン点灯しなきゃ叱られる
負けず嫌い元旦だけは日本人

岡谷 樹

ストップがかかる大きなレールから
それとなく空気清浄機で消した
居酒屋の椅子が今夜は慈悲深い

小原由佳

ハンガーに悟られぬよう香を薫く
指の傷癒えないままに渡る橋
被写体の薔薇ほど我慢づよくはない

笠嶋恵美子

飛び石を跨いで京都府警来る
雑炊になってようやく名を明かす
行く末を引っ張っていくアホウドリ

川田由紀子

冬天の墓石 三代を凍らせる
発情を予定している鳩時計
石蕗は信号無視を繰り返す

河村啓子

ストローが必要悪となる 揺れる
チューニングずらして向かうバスの列
給水所探しあぐねて八の段

菊池 京

檻の前舌舐めずりの虎といる
ホットカーラーぽこぽこ咲かせ弾む朝
味のある大きな文字で来る賀状

黒川佳津子

漢字ならたぶん神戸にかなわない
老害の芽を摘む観覧車の降り場
転職を望むか明け方の尿意

河野潤々

意外にも柔和なきみの曲げわっぱ
夜のふところ活性化する脳作業
ライオンの歯型を付けたヌ―が行く

斉尾くにこ

善良な市民にくれる鶏の皮
ギンビスのどうぶつたちの成長痛
あたらしい雪のひかりをかいでいる

澤野優美子

五条の橋に引っ掛かる実の祖母 
蔵のある家の貧しさ貰い受け 
ポンと開く傘が自慢の祖父と叔父 

重森恒雄

バク転をする柔らかいあの日まで
波の数だけザザッとひいているわたし
ブーブー紙でいろんな僕を鳴らします

芝岡かんえもん

まだ何か出てくるかもとポチが鳴く
潜水を一度で懲りたミズスマシ
振り払うおためごかしの背後霊

昌善

降り方を内ポケットにしのばせる
雲を割るメリーポピンズに会いたい
ピアスさえできないくせに愛なんて

どうにかしなきゃ鮭のくびれ
私の中の蜜柑私を引きちぎる
稲妻が私に父を呉れました

千春

ひんやりと育つ 一月のささめき
骨片のかすかに匂う冬桜
華麗な散逸 椿の予告編

西田雅子

スカラベなら如何にころがす初日の出
母由来みかん由来の楽天家
植生に変化のきざしたるこころ

芳賀博子

格言がやたら目につく十二月
ひとり去りふたり去りして十二月
このカーブ曲がり切ったらドラえもん

林 操

民主主義その国籍を問う会議
その必死さで自転車を雨ん中 
終活がところてん器で進めない

飛伝応

目で聞いて耳で見ている神無月
足腰が強くて人を愛せない
濡れている言葉スマホのメモ機能

平尾正人

部分日食こっそり齧るチョコレート
お月さま呪文忘れて店ざらし
開けごまハ短調から始めます

弘津秋の子

勝手に決めんな 足元の波に星
あいまいな瞳に熱をのせてくる
下手なりに丸書けてきてからオトナ

藤田めぐみ

しっかりせい皇帝ダリア抱き起こす
一升瓶四本提げて道の駅
自販機のお国訛りの音を買う

藤山竜骨

廃墟めくビルで売ってる宝くじ
終電の女のくたびれたグッチ
よれよれのパジャマ夢にはアルマジロ

宮井いずみ

総 評 2022年1月 芳賀博子

会員作品第6回をお届けします。

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