2022年1月 芳賀博子
会員作品第6回をお届けします。
ゆにのメインはなんといっても会員作品。今年も新しい風はここから。
今月の風
このカーブ曲がり切ったらドラえもん
林 操
主人公は徒歩、というよりランニング、というより何かを運転中? とするとそれは自転車、バイク、車? 想像の中で、くるくると絵が切り替わる。「曲がり切ったら」ということは、まだ大きなカーブの途中で、ドラマの本番はこれからだ。しかし句は「ドラえもん」でぷつんと終わり、続きは読み手に委ねられている。たとえばドラえもんが待っている? ドラえもんと別れる? いや、いっそ主人公がドラえもんに変身する、という展開もあるかな。ほんとは弱虫なんだけど、大切なあの子を助けるためには、頼れるヤツにキャラ変して駆け付ける、みたいな。
被写体の薔薇ほど我慢づよくはない
笠嶋恵美子
薔薇も我慢のしがいがあったろう。これほど被写体に執心して撮ってくれる人はそうはいない。ところで、俳人・池田澄子さんの新刊エッセー集『本当は逢いたし』にこんなくだりがある。「写真家のアラーキーこと荒木経惟氏にお会いする機会があった。あの方は心の濃い人だ。写真を撮るということは対象を悦ばすことだと思っていらっしゃる。対象が人でも花でも。死者でも萎れた花でも。」 あ、薔薇が今、微笑んだ。
ポンと開く傘が自慢の祖父と叔父
重森恒雄
こちらは、さりげないスナップのような句。その撮り方がとてもやわらかい。みんな久しぶりの再会だろうか。ポンと傘を開き合う祖父と叔父の一瞬の表情がいいなあ。でも背景にはそこはかとない歳月などもうっすら、しみじみとうつり込んでいる。私にとっては見ず知らずの人たちが、不意に懐かしい。
それとなく空気清浄機で消した
小原由佳
誰にも気づかれないうちに空気清浄機をオン。これで、先ほどの失言の余韻もすっきり消し去り、場もリセットされ、ついでにウイルスだって99.9%除去されたはず。主人公は一等敏感に空気を読める能力の持ち主らしい。上五の「それとなく」の、すうーっとすべり出す感じが、空気清浄機の静謐と絶妙にマッチ。
漢字ならたぶん神戸にかなわない
河野潤々
「神戸」と名指しされては、わたくし神戸人としては立ち止まらざるを得ません(笑)。けれど「漢字」と「神戸」がどう結びつくのか、正直よくわからない。ならばと、無理やり意味をこじつけて理解しようとすると、句の面白みからは遠ざかりそう。神戸といえば海、山、ビーフ、異人館、といった脈絡からではない唐突な「漢字」。でもなぜか神戸の知られざる魅力のような気もしてきてフシギです。
ギンビスのどうぶつたちの成長痛
澤野優美子
「たべっ子どうぶつ」の名でお馴染みのギンビスのビスケット。いろんな動物をかたどったひと口サイズのビスケットには、LION、SHEEP、BEAR、FURSEALなど、その動物の英単語が記されていて、おやつしながらついでに楽しく英語もおぼえられるのが人気の理由。さらに加えて優美子さんは川柳まで、ものしてしまった。「本当はこわいおとぎ話」のごとく、いつものビスケットからキワどく新鮮な世界が立ち上がる。
民主主義その国籍を問う会議
飛伝応
「デモクラシー」の語源は古代ギリシャ語にあるとか。けれど、その理念や定義などに、古来より多くの主張や議論があるのは言わずもがな。「その国籍を問う」とは本質の部分を問う、といったことだろうか。ニュースではことあるごとに「有事」なる不穏な文言も聞かれる昨今。が、どれほど紛糾しようと、話し合うのをあきらめてはならない。
雑炊になってようやく名を明かす
川田由紀子
いい具合に酔いもまわって、鍋もいよいよシメの雑炊になったところで、ようやく名を明かしたこの人。・・あちゃー、そういえば初対面やった。そもそもなんでこの座にいるのやら。なのにのっけから鍋奉行で取り仕切るわ、大笑いさせるわで、つい気を許して余計な身の上話までしてしもた。あちゃー・・てな情景はもちろん想像の一例。されど、縁とはまことオツなもの。なにやらほがらかにぬくい気分になれる句である。