2022年5月

桜咲く稲盛和夫さんを読む
君も桜もサヨナラをいうやがて
意を決し桜吹雪になっている

藤山竜骨

松籟が遠く遠くに悲鳴上げ
続く路越えたくも無し八十路坂
妻入院天下とったが寂しいぞ

堀本のりひろ

山々がもあもあしてる芽吹いてる
ガレージを開けて燕の帰り待つ
何したか忘れ楽しさだけ残る

毬 じゅん子

弁解はしないわ夜桜のピンク
少年を立ち止まらせたキリコの絵
地底湖の蒼さでさよならを告げる

宮井いずみ

することのない母の日がやってくる
あの人が好きそうだなと遊歩道
琥珀糖みたいな人を怒らせた

本海万里絵

葉桜になるまでのスローモーション
炭酸があふれる懺悔があふれる
決心がほつれぬようにかがり縫い

森平洋子

黄砂来る胸の悲色を消せぬまま
春風に思考停止を覗かれる
わかり合うことなく列車すれ違う

山崎夫美子

大虐殺絶対あかんあかんのや
大虐殺なにをさらしてくれるんじゃ
反戦のジョーンバエズは歌ってる

吉田利秋

苦味などまるでないフリ雪解水
めんどうを詰めた袋は陰干に
怒ってる川に向かって哭いている

四ツ屋いずみ

壊れても毀れてもある詩魂
緋の色に染まる崩れた街の朝
瓦礫より大肯定の蕗の薹

吾亦紅

つぼみつぼみ無垢なるものの反響度
3.11 4.14 父ら濡れて立つ
ロールストック美しく油断しているか

阿川マサコ

桜散ってもとの私に戻る路
春田打つ無為に押し潰されぬよう
陣張るならツツジ次々咲く山に

浅井ゆず

スコールにたゆたうアマゾンへ連れられる
失恋してもここは南十字星
キャンドルはラベンダーあの子は入学式

朝倉晴美

マスク外せば色のないマリウポリ
炭酸となって遥かな道草に
プランからさかなの骨は取っておく

岩田多佳子

ああ言えばこうと脱皮のできぬ蛇
花種を蒔く当てのないロスタイム
イマジンを聴く地球の端っこで

海野エリー

こんにちわ今年のたんぽぽ僕は風
君の目に映るたんぽぽ僕じゃない
傷つき泣くためたんぽぽ探してる

おおさわほてる

ウエハースサクッと今日は洗濯日
蕊が散るハンドクリームたっぷりと
地球を滅ぼすモスクワ愚連隊

岡谷 樹

前任の人のジョークがあった頃
忘れなさいと桜吹雪の力業
たましいの入れ替え夜のマニキュア

小原由佳

補聴器にノイズが溜まる侵攻後
誤嚥するまでは滑らかだった海
ロシアンブルー とても優雅に爪を研ぐ

笠嶋恵美子

宅配のピザに花びら付いて来る
胸襟を開けばぴゅーと春颯
お迎えが来るまで苺バイキング

川田由紀子

おろしがねさんざんなめにあってきた
火星移住内股の人からですね
集合的無意識 春のスキップ

河村啓子

明日のこと問えぬ花布おぼろ雲
解く風を待つまだ五月もう五月
信号は雨色 ここで小休止

菊池 京

大家さんに大ぼら吹いて風薫る
そげんこつ言われてもってががんぼは
筍をイタリア男と掘りに行く

北川清子

寂しさがゆっくり胸に落ちる音
一日を遊び惚けて帰る沼
清流のところどころに淵がある

黒川佳津子

とうとうたらりたらりらとのたれ春
いい意味でって言ってもんじゃを焼いている
プーチンと冷めたコーヒーあたためる

河野潤々

早朝に降る些末わやわや綿毛
屈託の真昼のシルクスクリーン
静寂の夜を破って咲く明日

斉尾くにこ

コクヨの鬱に朝井リョウの青インク
本日の空はボーイソプラノです
コイビトかガラムマサラかあらサクラ

澤野優美子

あの人が死んだと告げる春の鳥
玄関を開けると人が立っている
責任は全て他人にある月夜

重森恒雄

春うらら傷口たちの黙秘権
泥濘で泳ぎ続けている金魚
少年をこぼれぬようにポケットに

芝岡かんえもん

始末書を書かされているミケとタマ 
いつだってジンジャーエールで逃げる人 
天の川あれは私の捨てた星

杉山昌善

街角で拾う美少年のピアス
あなたの手冷たいままねしたあとも
おとこでもおんなでもわたしはわたし

須藤しんのすけ

いつかまたと言えずじまいの式次第
記念写真まぶしい明日を信じてた
肩書を外した空が澄んでいる

雨が降る指の隙間に猫が降る
豆ごはん「喧嘩は明日散るでしょう」
パクチーを植えよう星が鳴いている

千春

文脈はポプラの脈に繋がって
花の雲落ちないように歩いてね
朧夜を畳んで仕舞う桐箪笥

西田雅子

いにしえのニュータウンにも若葉風
影響を受けた詩人と指物師
薔薇園の今日一日をふざけ合う

芳賀博子

熟れすぎた自我を刈り取る月の鎌
ご自愛を頭の中に春霞
おにぎりでラッキーセブン持ち直す

林 操

落とし穴仕掛けて歩きスマホ待つ
その時になれば平和は考える
服を着てバスタブに寝て死生観

飛伝応

命だけは助けてしまうICU
救命艇に乗るのは若い人が先
氏素性知らぬイソップ物語

平尾正人

横歩き横向き春を全消去
ピピピッピ君の痛みが聞こえない
繰り返し記号明るく引き返す 

弘津秋の子

つつじってたぶん指なんか食ってる
口説かれる情報商材売るごとく
御し難いええじゃないかの使い方

藤田めぐみ

総 評

会員作品第10回をお届けします。

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