Vol. 50 めっそうもない

 銀行か証券会社の人との会話の中で、「めっそうもございません。」と言われたことがある。日常生活で、それも若い人にはなかなかなじみのない言葉ではないかと思うが、営業の際のビジネス用語のひとつなのかもしれない。

 滅相(めっそう)とは仏教語で、物事や生物の移り変わりを四段階に分けた四相の一つ。四相では、生まれることを「生相」、存在することを「住相」、変化することを「異相」、なくなることを「滅相」という。このなくなること・終わることの「滅」が「滅相」の語源。

 生きている人間にとって「四相」の最後である「滅」は「思いもよらないこと・あってはならないこと」なので、そこから転じて「滅相もない」は、「とんでもない」や「あるべきことではない」という意味に。

 実は「滅相もございません」の「ございません」は誤った使い方とも言われる。それは、「滅相もない」でひとつの慣用句とされているから。そのため、「滅相もない」の「ない」を「ございません」に変えると、単語として成り立たなくなってしまうそうだ。

 けれど、「滅相もございません」という表現は、相手の言葉を謙遜して否定する表現として、すでに一般化されている。もし正確に言うならば、「滅相もないことでございます。」だとか。私には使いこなせそうもないけれど。

  めっそうもございませんが咲いている  筒井祥文