2022年6月

逢うわけにいかなかったよネロリの香
セルライトくじけちゃいそなこころざし
肩に乗るレモンが前へ進めとさ

藤田めぐみ

草食の男子に捧ぐ鯉のぼり
クレーン車の曇天を突く志
異国語が聞こえる工場のけむり

藤山竜骨

老い二人細いこよりで共白髪
傘寿まで持ちつ持たれつヤジロベー
すき間からするりと来たぞ老いの風

堀本のりひろ

畑の婆鬼の形相蝶潰す
木槌の音響く谷間の遅い春
過疎の村認知症が増殖中

毬じゅんこ

決め言葉ばかりを入れたインク壜
若葉の強がりひこうき雲のびる

宮井いずみ

寒天かおばけのからだ食べている
ぬかるみにわざとうずめた白い足
山盛りに千切った写真舞い上がる

本海万里絵

たんぽぽの音符とばしてまた明日
言論の自由うさぎの耳伸びる
伝言を破くマニキュア赤過ぎて

森平洋子

肩ごしのみどり和解を予感する
新緑を泳ぐふりして少女ゆく
木洩れ日の揺らぎもう旅立ちの時

山崎夫美子

せっかちは遺伝なんですスミマセン
せっかちと言っているのに来ぬ返事
督促をしました返事ありません

吉田利秋

今さらの耳マッサージ彼女の秘密
シドニーの風に似ていて「ほ」をくれる
ヘンテコな愛だからかな続いてる

四ツ屋いずみ

咲いて散る命この世の点描画
七色の飛行機雲となる晴れ間
細編みの呪文うろこは夢幻色

吾亦紅

もう少し遠くありたいきりんのまぶた
骨格がはっきりすればまた迷路
痛い汚い怖い 紙石けんで洗う

阿川マサコ

いろいろな棘ささります聖五月
蜜柑にアゲハ私にハチが寄ってくる
いち押しは真鯉のようなお父さん

浅井ゆず

アマゾンツアー恋思い出して大河
昨日沖縄の人と話す五十年
娘とシシジューシー夜半の月

朝倉晴美

詩歌詩歌とかみしめるしかないするめ
オッとその句は寒天質になるところ
夏が来る骨粉まみれの人になり

岩田多佳子

新緑の闇に伏すブレイクダンサー
太陽が恋しい野菜狂奏曲
石楠花が咲いたまだやり直せそう

海野エリー

小手毬の胸のふくらみおさげ髪
紫陽花は僕の心だしぼまない
僕たちは空を飛べない蔦若葉

おおさわほてる

くちびるの跡が朧げ春の海
半島に真っ赤な嘘が流れ着く
ひまわりの根元に哀しみが埋まる

岡谷 樹

眉を描く私と私向き合って
うまいこと出会ってしまう紙とペン
そんなもんです春の終わりのカーディガン

小原由佳

ジャムセッション五月の森をふくらます
飛ばぬようカーテンの水玉に呪文
青い目の猫と目が合う聖五月

笠嶋恵美子

吉日や鰺の開きがこっち向く
腰紐を繋いで登る天守閣
笊に笊重ねて笑うお母さん

川田由紀子

暮春しょんぼり耳掻きの羽毛もつれだす
フィトンチッド糺の森は遊魔びて
人類に嘴があり金鳳花

河村啓子

正の字にひとつ足りない夕間暮れ
スクロール昔々が見つからぬ
登録抹消大人の塗り絵はみ出して

菊池 京

白猫の察するところ芥子のせい
すぐするさかいひょうたんやのとってんか
フェラーリ降りて回る回る寿司回る

北川清子

君からの手紙についているフリル
三合も飲めば白状してしまう
正論に待ったをかけるハイボール

黒川佳津子

伊右衛門の伸縮性が癖になる
踊り場の主役にされたふくらはぎ
短パンのじいちゃん民事不介入

河野潤々

ぬくもりのあってこのまま焼きリンゴ
カミツレのまだ靴白く腕白く
あたたかなポストやわらかな山々

斉尾くにこ

地上波や妖しく動く鯨尺
生食パンかしら童貞説かしら
変換の愛ふんじゃった糞ころがし

澤野優美子

会えるかもしれない午後の苺パフェ
鼠色の人がついてきて喋る
此処は何処だと問えば四月一日

重森恒雄

気がつけば飼い慣らされている猛獣
人型の過去をギュッと抱きしめる
修羅場の場数を踏んでいる小指

芝岡かんえもん

初めての罪を纏って青い梅
飛蚊症 ツートントトン暗号か
菜種梅雨 謝ることの多き朝

杉山昌善

顔の無いテレビが並ぶ巡礼地
大嫌いな村上春樹と走る
手持ちの証拠は以上です、裁判長。

須藤しんのすけ

令和ってブラックユーモアの積み木
マッチングアプリ今度こそはとつけ黒子
真夜中にハートを入れた誤送信

アスパラパスタアスパラパスタと二度言おう
蕗!蕗!と言っても遠い沿岸
鏡台のふっと沸き立つ注射針

千春

雨に浮く駅舎は宇宙船めいて
笑わせる雨のコトバに置き換えて
雨だれのつぶやきに似た終わり方

西田雅子

金田一さんを金魚の間に通す
日報を打てばいつしかラップ調
城は遠すぎて夕顔のほとり

芳賀博子

若葉風介護疲れが牙をむく
春の乱あとは代打に頼みます
茶畑の新芽ツンツン飛べそうな

林 操

孝行な息子だ親を連れまわす
回送のバスに乗りたい春ウララ
現金は減らず貯金がとけてゆく

飛伝応

親だから子どもだからという鎖
受け止めるべきものがない膝頭
楽になるために楽ではない仕事

平尾正人

こどもの日母の日初夏のひとしずく
教え子のハチミツ「奄美養蜂場」
岩燕夕日の眩しさを見たか

弘津秋の子

※宮井いずみさんの会員作品の1句を、ご本人のお申し出により削除しました。

総 評 2022年6月 西田雅子

会員作品第11回をお届けします。

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