父の背を見せずに終わる父の道
老春は青春よりも面白し
気がつけば長方形の箱の中
杉山昌善
お行儀の悪い秒針だけ残る
エロ本に少年法の予告編
小銭ジャラジャラ切り取り線の向こう側
須藤しんのすけ
ごめん言いそびれ生煮えのおでん
ちゃんぽんの鳴門がぐずりだしている
待ちわびて星屑入りのハイボール
妙
雨天決行 十三日の金曜日
あやまちは二つ三つの有精卵
昨日までじいちゃんだったナメクジラ
浪越靖政
旋律の凍ったままのレクイエム
みるふぃーゆ隙間から吹くみなみかぜ
春より淡いものの一つに伝道師
西田雅子
畏れるなマリは転がるヒトは死ぬ
踏んで踏んで捏ねて私を強くする
耳の位置ずらしたら淋しさ逃げた
西山奈津実
口内炎鉄とユーモアの不足
円陣をゆるっと組んで雲雀東風
若駒の嘶き空を開きゆく
芳賀博子
残雪の汚れ春雨待っている
逆算ができなくなって春嵐
鈴が鳴りいよいよタイムリミットか
林 操
雪まつりアナタ器用な転びよう
雪玉を手助けしたい雪まつり
雪像をなでて確かに雪まつり
飛伝応
組み合わせ次第で詩にも死にもなる
何でもないトマト魔法が解けたなら
天と地の狭間でブランコが揺れる
平尾正人
春の鳥すぐに答えを聞きにくる
ラジオ体操朝は固体のままである
ただならぬ声は消されし雪達磨
弘津秋の子
抜け殻の二人がしまう鋤鼻器官
みだらふわはら八重咲のチューリップ
淋しさとコンソメスープ似ています
藤田めぐみ
恋をして炭水化物しりぞける
手と足を動かせ脳は過労気味
マスクしてスーパースターバスに乗る
藤山竜骨
寒空に私此処よとユキヤナギ
二万円かあちゃん好きよオベンチャラ
ずーとずーっと這いずり回って蟻地獄
堀本のりひろ
思い込みだった踏まれた雪だった
ミルクティーあなたがパグを買った夢
窓ガラスぴかぴか空はメントール
宮井いずみ
ヒマラヤのブルーポピーに会いに行く
スマホ捨てランプの宿の青い時
最果ての旅の途中の駅ピアノ
もとこ
ひだまりで猫になってるひとがいる
木蓮の産毛のなかに隠したよ
ねぇあなたないものねだり得意だね
本海万里絵
雪花菜炊く台所から寒緩む
スムージー肺活量を試される
特設の会場で会うチロルチョコ
森平洋子
山焼きの祈りの渦を抜けて闇
風下の椿は知らず喪が明ける
しんがりは雪にまみれた埴輪馬
山崎夫美子
三食がステーキだっていいんです
鬼だって扶養家族があるんです
多数決ボクは両手を挙げている
吉田利秋
ゴージャスにおなりのチョコの遥かなり
寂しいのねあんなにも夢で会うとは
味方にも敵にも2月の雪ひら
四ツ屋いずみ
わたくしの花の都は三宮
高架下ぼやく相手は餃子です
頷いた生きていこうと独りでも
渡辺かおる
キリリ寒 空のつららに春の詩
独りから伸びて春光もう一人
青を増す雪の残影 北帰行
吾亦紅
何回目がねじやまやったん君の恋
満月の猫撫で声にさからわぬ
護摩祈祷燻されている慰撫されている
阿川マサコ
春のカプセル今産道を通過中
いつの間にかセレブになっていた苺
通りすがりの街のピーポー春疾風
浅井ゆず
生ビール搭乗口からモスク
コーランの彼女と話すコカ・コーラ
ハラル欄に✔️帰国のJAL便
朝倉晴美
燭台の下でスマホがうざったい
平成が元素記号になりました
リスキリング それはそれでと里帰り
伊藤良彦
お決まりのメタファー剥がし広い空
プチプチの中でプチッと言わぬ奴
ため息の中で孵化する嘘模様
稲葉良岩
すこしずつ空気が抜けていく母屋
鳥が舞うカーテン一枚縫い上がる
変化球とどくあたりが二月です
岩田多佳子
ギアチェンジ方法論はややこしい
三年間も封印されていた笑顔
ひとりきりの回転木馬自由だね
海野エリー
剥製の亀の甲羅にぼたん雪
リヤカーに淡雪積んで街に出る
少年は瞳の奥にぼたん雪
おおさわほてる
あしたから別のかたちで飛んでみる
夢の終わりが本棚とゆれている
うっすらと余白を照らす文字の列
落合魯忠
ほんのりと赤くなっている言葉
言った言わないもう立春に任せてる
わからんと言ってデコピンしてもらう
小原由佳
鍵いくつ外せば春になりますか
記念樹に満たされている余白
陽を浴びて少ぅし螺子を弛ませる
笠嶋恵美子
春が来るこむら返りを宥めつつ
吸盤がびっしり付いている背中
こし餡か粒餡かあなたを割ってみる
川田由紀子
遠心力そうね二月のポップコーン
肌理のこと如月のこと黒めがね
濁点をとれば可愛くなる二人
河村啓子
五線譜を滲ます癖字なごり雪
エチケットブラシ逆走春の陣
充電は完了出る杭の顔で
菊池 京
○は○□は□でいいんだよ
そこの×いばってたっていいんだよ
☆を見て☆が消えたら☆作れ
北川清子
雪解けを待つ友のあり二月堂
うとうとと梅咲く音を聞いている
和解成立 仲裁役は焼きプリン
黒川佳津子
梅東風ダァテッサテッチリクウテヲリ
毳毳しく犇めくガバナンセンス
もてあそぶ砂は四割くびれ前
河野潤々
たしなみのひとつに雲のデザイナー
横顔に映り込んでる折れた空
だから、なに 空を見上げるイヌフグリ
斉尾くにこ
チョコがはじける口中の線香花火
さかてでながす三月の腱鞘炎
はつじょうもせず日向で犬はしにました
澤野優美子
梅が咲かない審判の勘違い
雪はまだ降るまた一つ歳をとる
美しくない鳥も橋を渡った
重森恒雄