予定通りに終わる桃の缶詰
叩いても踏んでも虫に愛される
靴下の穴からシリウスが見える
重森恒雄
やってみる「猫ふんじゃった」駅ピアノ
老いの恋 だましだましのビールです
世の中よ裏も表もあるヒラメ
杉山昌善
即決のコパカバーナに足す黄色
欲情のトマトは甘く甘く煮る
あいうえお順に並べる花言葉
須藤しんのすけ
茶碗蒸し春のスターと入れ替える
何色か春を試した予告編
いま春がカミングスーンと囁いた
妙
傘寿きた縦揺れ横揺れ斜め揺れ
ご忠告炭酸割りでいただこう
A4の桜が咲いて散っていく
浪越靖政
スリッパ立てに置き去りのままの朝
数式をほどく夜桜ぬけるよう
おひとりさまのロイヤルミルクティーな日
西田雅子
元気でごめん!ピンボールな春の風
それ始めたら薄荷水に嫌われるよ
亡霊は君ではなく僕だという事実
西山奈津実
一本足打法八本足打法
校則を逆手にとれば鳥雲に
自転車で均す重力のひずみ
芳賀博子
根菜に体力ついたか試される
はさみ揚げ蓮根ほどの板挟み
ため息を小瓶に詰める星の砂
林 操
名はルフィー姓はキムですけど何か
鼻毛切りましょうマスクは捨てましょう
万歩計あたしを置いて足早に
飛伝応
豊饒な海だ言外とか余白
強くなるためには開示せよ弱さ
零れ落ちた夢の欠片を探す夢
平尾正人
春炬燵春アレルギー春嫌い
鶯の初鳴き何となく音痴
午前四時春一番がノックする
弘津秋の子
更年期自虐疲れも含まれる
蛇行するそれは自然なことですね
潮満ちて遥かにピンク色の鯨
藤田めぐみ
噴水がイキイキし出すEメール
オオタニになりたい信楽の狸
不在着信オジサンは吠えていた
藤山竜骨
老いたなあ別れがそこに時止まれ
バーゲンセールおばちゃん方の主戦場
風が啼く夜寒独り寝深い闇
堀本のりひろ
三月のりんご異界を鷲掴み
他愛ないうわさカタクリ群れている
ユリの木の手紙は鳥へおひさまへ
宮井いずみ
午後7時AIボイスが読むニュース
マスク捨てプラスチックごみ捨てに行く
初桜サクラビールといかなごと
もとこ
永遠を欲しがるそんなものないよ
終わりたくない知り尽くしたくないの
朝露を吸えばわたしがよみがえる
本海万里絵
花びらの単語となえてペダル漕ぐ
三度めの目覚ましで起きて春の夢
にんげんに退屈したらミズクラゲ
森平洋子
白旗をもう干している春の変
両の手に喜々と火を浴び二月堂
あのときの鑑真がいる波がしら
山崎夫美子
十年の扉あふれ出るドラマ
「若者たち」の佐藤オリエが好きだった
藤井聡太はブラボーなんて言いません
吉田利秋
遺影の犬と語り合う春嵐
踊り場の隅に忘却積んでゆく
それならばボッティチェッリを呼びましょか
四ツ屋いずみ
何もかも聖域のよう見える春
飛びます飛びますマスクの中で飼いました
あっかんべーみんな元気なピンク色
渡辺かおる
存在の証し 反抗手厳しい
私を見とどけながら月の舟
夕まぐれ 螺旋階段的青さ
吾亦紅
加速する正円恐怖根の国へ
春の潮龍体文字を呼び起こす
逃避行あうらは雲母(きらら)ばかりなり
阿川マサコ
春の雨墓はゆるやかに傾ぐ
めじろ追う動体視力低下中
酒屋さん消えてコンビニ花曇り
浅井ゆず
うっすらと弧地平線に心乗せ
航路一路東、東へ東へ僕
ドーハ上空経度の話聞いてない
朝倉晴美
待つことも諦めるのも飽きて春
美辞麗句集めてやがて年度末
大空を吸ってマスクは水色に
伊藤良彦
着地点君のカレーに教わった
アジェンダを無邪気に泳ぐ誕生日
ペチョペチョと靴底が鳴る嘘のあと
稲葉良岩
轡から外されて狼狽える馬
包帯をしばらく解きつつツツジ
木箱にはまだ輪のままのフラフープ
岩田多佳子
さくら咲いたよあの日の声が好きだった
空き瓶にたっぷり注ぎ込む野心
水はやわらか風切羽のちょい頑固
海野エリー
ポケットにミモザの花と君がいた
ミモザ咲く君の鼓動が近づいて
目を交わすミモザの秘密しのばせて
おおさわほてる
潮騒の記憶のなかのピタゴラス
あさっての方からゆくの古書の森
サバの眼のとろりんとして見る異界
落合魯忠
コンポタを少し邪険に三月は
しょうもない調査回答溶け残る
可愛げを排して夜を直線に
小原由佳
ほろ苦い夜をざらつく猫の舌
受けて立つポケットチーフは桜色
身に覚えないのに水が漏れている
笠嶋恵美子
ガチャガチャを回し続けて海になる
モアイ像の列に並んでいる猪木
桜の下で職務質問受けている
川田由紀子
バラードを紡ぎ出してるがんもどき
どっちみちワンオペいずれワンルーム
役職を解かれましたね枝垂れ梅
河村啓子
映写機が回る音だったね 家族
桜餅を葉っぱごと喰う黙秘権
ファイティングポーズでもらう花の束
菊池 京
チョウジソウ咲けば始まる二人展
水彩のカリフラワーを咲かせましょう
水使い水に試され育ってく
北川清子
キラキラをいっぱい溜めている蕾
水色のシャツにアイロン 逢いたいよ
大抵のことは気球に乗せておく
黒川佳津子
四捨(鬼の止瀉薬誤嚥して)五入
青汁を真似て返済はぐらかす
双葉咲き誇れパパ友抜け落ちれ
河野潤々
ラレシセロリと春待ち人の糸車
廃棄する臓器で海老の味噌パスタ
黒猫と月光浴の途中です
斉尾くにこ
源氏のあびた桜の闇にうずもれる
おぼろ夜をくるりと返すクレープ屋
アポロチョコたとえば星になりなさい
澤野優美子