あかねさす明日よ月路の迦陵頻
くれたけの伏せしみみずの這う かしこ
継皮を見せ合うサワー梅雨の星
河野潤々
紫陽花の季節もやっとノクターン
あんにゅいなこともオイルのえがく虹
オムライスなかのライスになるベッド
斉尾くにこ
昼間から佳境にはいる和菓子の日
銭形警部の位置情報が宙返り
御用達銘茶レモン曜日はどうでしょう
澤野優美子
夕食の足しの見事な流し打ち
ぴったしの靴で窓から出られない
持ち時間なくなりスイカ抱いている
重森恒雄
恋成就 昼の蛍のうとうとと
大志あり月に向かって飛ぶ蛍
廃校の同窓会に来る蛍
杉山昌善
祖父の手に見知らぬスパイスの小瓶
乳輪は嘘つき水の孕む音
楽園じゃないと死んじゃう日本男児
須藤しんのすけ
キスのふり肩甲骨が知っている
欠けグラスよい思い出を継ぎ合わす
雨上がりホタルとボクと蝉しぐれ
妙
モナリザの尻をつねってみたくなる
お返事は なななんと巴投げ
そして今ならんで足湯してる仲
浪越靖政
いっせいに銀河へ放つシジミ蝶
湖底からときどき浮上する規約
10センチ毎のカタツムリの未来
西田雅子
関節がひとつ足りない昼の月
木だって歩ける五味太郎にさ聞いてみな
六月はきっと酸性だっていたい
西山奈津実
宇治氷攻撃的なおせっかい
梅雨きのこ引き返そうとつぶやけば
睡蓮のかたちで露呈してしまう
芳賀博子
ガチャガチャに第二の人生任せます
片方が行方不明の母の箸
脱皮する度にやっぱり蛇である
林 操
父の日父は父の顔取り戻す
雨でも晴れでも年金支給日は明るい
買い戻す間もなく天を刺す株価
飛伝応
承認欲求イイねイイねを付け合って
騙された振りをしている騙し合い
寂しくて噂話と陰口と
平尾正人
黒鍵とお喋り「猫ふんじゃった」
変顔から始まる声楽レッスン日
我が町も大雨 仙人の怒り
弘津秋の子
右肺の下のあたりにプチ遺恨
ニューヨークを歩いているような築地
原因不明そっか何でもそうだよね
藤田めぐみ
くちびるを切って崖から這い上がる
AIは縁切り寺へ行けという
日銀に向かって吠えているキャッシュ
藤山竜骨
へそ曲げりゃ何より恐い愛娘
わしが村湖の底から夕陽見る
疑心暗鬼小心者故蟻地獄
堀本のりひろ
フラミンゴのだみ声 臭うトウシューズ
親切な波のなりたち見てしまう
シュレディンガー方程式に鷹の羽
宮井いずみ
五十路なる息子と夕餉croquette
帷子が夕闇に浮く山法師
樺美智子が殺された日の立葵
もとこ
しらんぷりするのほんとがうそになる
ぼくだけの寂しさがキラキラしてる
久しぶりラジオのノイズ傘に降る
本海万里絵
灰色の空に沼地のあるやなし
忘れたい言葉はいつも平熱で
ウクレレになりたくてラジオ体操
森平洋子
こじ開けた季節するりと青蜥蜴
病棟のひかりへ寄せてくる小舟
関節のぎくしゃく君にノクターン
山崎夫美子
玄関に押しピン落とし見つからぬ
減っていく歯の本数と記憶力
譲ってきた電車の席を譲られる
吉田利秋
サバゲーを勝ち終えたよに歯医者去る
他人行儀に映るオホーツクブルー
休息期回復期経て残るもの
四ツ屋いずみ
一錠の転がる薬追いかける
もう少し元気でいたい冬の花
内視鏡 見たことのない私です
渡辺かおる
夕焼けの母 結界の遺失物
遠ざかる背なの茨に月明かり
黒い猫 闇の深さの案内人
吾亦紅
追熟のあの子の産毛まぶしくて
釣り堀のあかるさ昭和退行す
今はキラキラ卵子凍結すればよい
阿川マサコ
ツバメに軒貸して乗っ取られてアレレ
甘い香りになりたくもなし栗の花
今日田植えしました餓死はしたくない
浅井ゆず
なりたいわね鯛に住む小鯛にね
今宵はね鰤のカマと話すのよ
鰯と目合うて頭を切り落とす
朝倉晴美
義務感で冷やし中華と踊る夏
曖昧な酸っぱさにある無責任
昼寝する錦糸卵をかけられて
伊藤良彦
侵略を見つつ八ッ橋食べている
さりげない好意が罪となる憂い
囀りをにんまり見てる布袋さん
稲葉良岩
六月を旅するみずいろの衣
現実にデラウェアまだ目覚めない
七月の黒鍵のゆびコメディアン
岩田多佳子
返事はひとこと真夏日の予感
横向きのワタシ余生のエキストラ
忘れたい日々を海月の再浮上
海野エリー
村中で留守番しているカブト虫
サーカスの団長さんは青葉木菟
ぼうふらよいつか絶対手懐ける
おおさわほてる
誕生日ふやけてるけどおめでとう
愛一つがっつり肩に乗っている
後輩の移動手段は羽根だった
小原由佳
冥界を行きつ戻りつ沙羅双樹
梅ジャムに飛び込んできた訃の知らせ
雨垂れに歌わせながら刻む葱
笠嶋恵美子
久々のアロマ枕に振りかける
遠ざけたバナナ再び相棒に
真実を知っているのはふくらはぎ
川田由紀子
メレンゲに潜ませているエコノミスト
蟷螂を階段下に待たせてる
そばだててかそけき声を聞いている
河村啓子
夕焼けと今日の占い見て静か
自叙伝はショート動画のエンドレス
ジャムの蓋べとり黙秘権行使
菊池 京
樹の風草の風ふたりで行く
君はまっすぐ無花果の葉の香り立つ
麦は秋わたしはわたし
北川清子
ドアに指挟む程度の恋の傷
玄関を出ればシャキッとする海月
湿っぽい話も入れて冷素麺
黒川佳津子