曇天のタイトロープに埋もれる
渡り鳥同士忘れるのが得意
催涙雨カラーチャートにない色の
黒田弥生
セパ穴にフリルを見せてオトコエシ
女子風呂に精通してる熨斗袋
ねるぬるぽまほなるぬまはよるはねる
河野潤々
ホノグラム無駄におしゃれな小犬たち
ど忘れのドを惑わせる十ケ条
ぽやぽやをジップロックに詰め込んで
斉尾くにこ
惜別へちょうちょ結びの請求書
泣きむしのナウマン象を知っている
大きめの傘の無言がむず痒い
澤野優美子
難聴の耳に聞こえる鐘の音
楽譜など読めもせんのにカモメ舞う
天国の夜の浜辺の難破船
重森恒雄
毒リンゴこっそり妻が持っている
これ妻よ うちの箒で飛べません
町内会 魔女狩りという多数決
杉山昌善
ファの音が半音高い私はピアノ
三角のてっぺん母は二人いる
そしてまた少女の瞳星と輝く
須藤しんのすけ
泣き虫のほらもうそこに溢れ出す
ポトンからポットン大泣き注意報
耳抜きの苦手なボクの泳ぎ方
妙
土筆はスギナ息子は反抗期
常温になるまで少し距離を置く
プルタブを引く始まりの終わり
浪越靖政
続編も雨で始まる飛行場
詩になろう雨になろうと紫陽花は
逆光の睫毛に触れてゆく記憶
西田雅子
母の乗る舟はいつかは出るのだろう
心がさびしいと細胞がやせる
門は閉じたもう待たなくていいんだよ
西山奈津実
なまけものたわけものらのお墨付き
ひまわりの副音声を聴く日暮れ
純喫茶ロンド夜だけのメニュー
芳賀博子
パイ生地に龍を忍ばせクーデター
木曜日の一番星は破滅の灯
革命に火をつけられぬ缶ビール
橋元デジタル
もがきつつ言葉の海に身を投げる
忘れもの探しこの世を掻き回す
熱中症わたし丸ごと洗います
林 操
宝くじ買わぬ後悔買う不幸
信号のすき間が人を走らせる
行きずりに人をあやめてさあ殺せ
飛伝応
ご破算で願いましてと夜の街
仮説から理論 最後には法則
安心と安全どちらにも死角
平尾正人
大洪水日本の国は亜熱帯
携帯メール「お手紙をありがとう」
つかの間の若さを笑う立葵
弘津秋の子
副作用ですか覚醒ですかギャグですか
奪われるもんか顔認証効かず
弔合戦勝って点滴棒に朝
藤田めぐみ
喋らないぎゅうぎゅう詰めの喫茶店
ふがいない男の傘を折り畳む
名月に傾き出したガードマン
藤山竜骨
同窓会病気自慢で日が暮れる
愛恐し浮気の虫を摘ままれる
こんな僕につかず離れず金魚の妻
堀本のりひろ
ここからは雨でアンチによる主張
横やりが入った夜の着水音
えにしだと思う表情筋緩む
真島久美子
初蝉を聞いた人から桃になる
妖精の怒号とびかうフライパン
返納をしようか錆びた天使の輪
宮井いずみ
蟷螂の羽根を広げる京の夏
夕顔の口のチャックが壊れてる
花殻を摘む手のひらの死が丸い
もとこ
大好きで近づくことができません
ゆらゆらのきみのとなりでゆれてみる
くりかえしなんだけど愛おしい日々
本海万里絵
一面のシロツメクサの銀河系
海月と海星のしずかな浜辺には
夏雲と蜘蛛糸で編むハンモック
森平洋子
抜け殻がぽつん来世も蝉ですか
風鈴の無邪気へ渇ききる甍
夏闇のじっとり牡鹿見失う
山崎夫美子
まあええかアンパンマンと呼びなさい
まあええか免許返納してあげる
まあええか川柳だけが残ってる
吉田利秋
蓮に隠れたカエルの寝言盗み聞く
むしゃくしゃをクシャクシャっと畳紙に
空白を授けてくれた奥入瀬のおと
四ツ屋いずみ
赤チン消え父は亡くなる 母を看る
たまに来る家族のためにあった椅子
ふらりふらり 欲するままに西瓜買う
渡辺かおる
脱ぎ捨てて味方となった螺旋考
すずなりの思想タネはないらしい
月光に正しく転ぶ絶頂期
吾亦紅
炎天に誰もが空費することば
意識下にまごうことなき加害の芽
びらびらと都会の糜爛金魚考
阿川マサコ
夏草はうねる私はしおれてる
明け方の夢に出たのはまたも父
カサブランカどかんと夕暮れの仏間
浅井ゆず
思いっきり晩夏パパを追い出して
マンゴーたわわ夢の入り口男ども
人参三本千切りに雷雨
朝倉晴美
脳内のお花畑に水をやる
押し入れの参加賞たちのザワザワ
降ってくる優しさまばら今日の月
石野りこ
百体のマネキン並び天の川
白い靴ウソツキが誉められている
半額のシール剥がして誕生日
伊藤聖子
緊張が胃壁を走る九時と五時
1日で1年分を寝てみたい
延長戦タオル投げるか投げまいか
伊藤良彦
天命の糸で紡いできた感謝
メモ帳の裏は元カレのナンバー
シエスタは目を閉じ羊水に浮かぶ
稲葉良岩
泥濘は円周率で出来ている
失意ではなかったワサビ味だった
願望がもやい結びになっていく
岩田多佳子
おおかたはマイペース山百合の白
試作詩作思索南風の強し
樹木葬にするよ彼女は蝶が好き
海野エリー
ガチャガチャの中はいつでも桜桃忌
サクランボ肩を組もうぜドラえもん
この恋のパスワードですサクランボ
おおさわほてる
天の川黄色い旗が置いてある
酸っぱい話ちょっと大きくしておいた
5回ほど奇遇ジャンジャン鐘が鳴る
小原由佳
向日葵の首が妥協をゆるさない
逆立ちをする椅子もいて八月忌
雲海を泳ぎきったかミズスマシ
笠嶋恵美子
バランスボール松の廊下を転がって
白球に羽黒トンボがついて来る
どこか狂って真夏のクリスマスソング
川田由紀子
歩きましょ時を跨いで見送って
ブラウスの衿がそよげばそこは夏
口蓋の裾野に咲いた半夏生
河村啓子
森を出るあずさ2号の前奏に
知り過ぎた罪足裏のご飯粒
引っ掻いて削って夢の新技法
菊池 京
この旅は夏色に髪染めてより
さあ潜っても浮かんでも夏の海
海月になった少しぼうっとしていて
北川清子
笹団子ほどけば夏の匂いする
ささやきが紫めいて時計草
笹舟に乗せて重たい恋心
黒川佳津子