今日の一句 #615

憧れて甘えて手紙だけ残る
坪井篤子


憧れて甘えて。
この「甘えて」のはたらきに注目する。


憧れて甘えて。
リズム良く連なりながら
「甘えて」がふっと句を濃厚にして、
そしていったんここで溜めをつくって
次の意外性ある展開へ。

相手は先輩、友人、あるいは師。
恋の句とも読めるし、
そうではなく、シンプルに憧れの対象だったとも。

写真やメールでなく
「手紙」というのが趣深い。
文をかわしあったその人は、もうどこまで遠いのか。


ひと粒の極上チョコレートのように、
噛みしめれば甘くほろ苦く、後味がきれい。



(季刊「現代川柳 かもめ舎」第59号/2023年10月)

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