今日の一句 #624

カレー煮る部屋にも満ちるニュートリノ
青砥和子


深遠な真理に思わずニマリだ。
ニュートリノ・・素粒子の一種で
素粒子とはあらゆるものを構成する最小単位でありつつ
宇宙の謎を解く鍵でもあるという。

そしてそう、太陽で生まれたニュートリノは、
今この瞬間にも、
私たちの体を1秒間に数百兆個通り抜けているらしい。

ニュートリノに関する発見といえば
2002年には小柴昌俊博士が、
2015年には梶田隆章博士がノーベル物理学賞を受賞。
と、世の中がビッグニュースに沸くたび、
「なんかすごいなあ」とその神秘に
にわかでワクワク魅せられたけれど、
本作で久しぶりにニュートリノの存在を再認識した。

さても、「カレー煮る」がふるっている。
ことことカレーの匂いが満ちゆくなかで

ふとニュートリノに思いいたる様子が
ユーモラスに描かれ、
この部屋そのものもまさしく、宇宙を構成する一部なのだ。

出典は、先ごろ上梓された青砥和子氏の第一句集『雲に乗る』。
新鮮でユニークな気付きが川柳で表現され、
ページをめくるたび、

日常への意識が少しずつ更新されていくよう。

 裁ち鋏持てば切りたい冬の空
 カラダジュウカタカナダラケ棘ダラケ
 しゅるしゅると愛が抜けてく天使の輪
 太い字で「おれの」と書いた段ボール
 ちょっとしたコツで別れに慣れてくる


(句集『雲に乗る』 青砥和子/新葉館出版 2023)

過去ログはこちらから▶