2024年2月

まだ正月を引きずっている恋御籤
力にはなれないけれど鐘を撞く
星屑で被いきれない津波跡

笠嶋恵美子

額縁の中をきれいに泳ぐ夜
ジーニーを呼ぼうか月はまだ高い
土曜日のおでこに乗せるオリオン座

桂 晶月

大鳥居抜けたらそうよここはパリ
小吉や田んぼに降りるコウノトリ
カラムーチョ食べて金剛力士像

川田由紀子

年明けのとてもドレープな鹿威し
沖あれて眼鏡レンズの曇り止め
テイシュな午後に淹れるヌワラテリア

河村啓子 

面取りもアク抜きもしてかごめの輪
スヌーズの波間と君の遠い目と
「かもね」って不機嫌そうな朝焼けに

菊池 京 

ハーモニカ響くカモミールティー輝く
ラジオの溶けてクリームパンの頃には
かあさんをやめたらそうねチョココロネ

北川清子

雪蛍 追って行きたい人がいる
トゲトゲを溶かして暖かな日差し
免疫を上げよう星の話しよう

黒川佳津子  

メタセコイアの樹氷手套に燃え残る
三日月へ吊るせば点滴の小部屋
鎖骨から湖のしずくこぼるこぼる

黒田弥生

ほつれゆく映画雪庇の成長す
場違いな博多の鷹はないが、千葉
ソフトロー、紙ストローにZZ咽よ

河野潤々

夕暮れのこころの糸の綴れ織り
感情の漂流風も水も冬
推定無罪 湿霧のタペストリー

斉尾くにこ

ブリキのラッパ空を起こしているところ
ト書きには明るい顔で振り返る
ちっぽけな未練にビタミンかすていら

澤野優美子

大好きな猫がいる家を出てゆく
一月四日ドリブルで二人抜く
お城が見えている冬の不整脈

重森恒雄

悪友の絆の方が丈夫です 
通ぶって真冬に食べる冷奴
ケンケンパとんとん拍子 踏み外し

杉山昌善

リムジンは子供銀行へと向かう
天使が通る囮捜査はここから佳境
三角のてっぺん母は二人いる

須藤しんのすけ

色っぽい腰をかくしたシクラメン
別々の鍵が待ってるペアグラス
変形の夕日と帰る泣きながら

停戦に応じられないエルニーニョ
情報源はいつでもスズメバチ
時差ボケのままに今年も冬の入り

浪越靖政

約束のうすさ たとえば蝶の翅
稜線に沿ってひらけばロールシャッハ―
らしきもの漂うような風除室

西田雅子

チェリストはとけて完璧な虹になる
さそわれて夜を解体しています
加熱して少年をパプリカにする

西山奈津実

手袋をもごもごはめて仲裁す
閂を外してくれたのは小鬼
抹茶ラテ誘導尋問はスルー

芳賀博子

パー券は鼻からぐっと吸いなさい
負けん気に素手で触れてはいけません
ポテサラに混ざれぬりんごも愛せよ

橋元デジタル

木枯らしにあちこち不調不眠症
幸せな時間の中のすき間風
冬空を見上げピリッとする自由

林 操

屑籠へ投げて自責の二度三度
死ぬるまで死ねる病を楽しめる
斜め横断のコスパを嗤うカラス

飛伝応

論点をずらして外野から攻める
呼気すべて吹き込み夏のシャボン玉
辞世句の改訂版をまた今年

平尾正人

お正月インフルエンザやって来る
高槻日赤初診料七千円
親指の爪真っ二つ辰の年

弘津秋の子 

セックスレス一人焼肉コカコーラ
おばさんと言われ苺は驚いた
賀状じまいリスになりましたとあって

藤田めぐみ

ひゅるひゅると能登半島に降る無常
千羽鶴 能登半島を降下中
今まさに風になろうとするピアノ

藤山竜骨 

大地震ちっちゃい私虫になる
何処の誰だか名前浮かばぬ八十路ジジ
絶滅危惧種人の身勝手産ませたの

堀本のりひろ

トンネルを抜けたら増えていた黒子
標本に触れる身内に触れるように
占いの婚期はとうに過ぎている

真島久美子

流星のふる降る京都からふね屋
お願いはしないよ敢えて加賀棒茶
フェロモンが尽きて手水の龍の口

宮井いずみ

ミルク色の霧が流れて初日の出
朝の窓老猫と会うルーティン
戦争の音ザクザクと冬の壁

もとこ

たくさんのぼくこんにちはさようなら
「元気です」受話器はなくてけど届く
してあげるほかにはだれもいないので

本海万里絵

絆創膏はみ出している寒旱
みかん剥く細き指先なに迷う
占いを斜め読みして初仕事

森平洋子 

大それた事にもゴキブリの拍手
檸檬も林檎も待ちくたびれている
アボカドだってきっと予定が有るのでしょ

森 廣子 

場面変わって北斗七星スタンバイ
まことしやかに喇叭水仙返り咲く
潮騒を鞄に入れて終列車

山崎夫美子 

年末に反原発の集会へ
能登地震 カジノ万博もう中止
全員のいのち救った乗務員

吉田利秋 

生真面目な豆苗の叱咤激励
ノストラダムスよりもシンギュラリティ
龍の目と見つめ合う時つと涙

四ツ屋いずみ

中指親指あかぎれ痛む5時
1.17一体になる神戸の地
六甲おろし強く生きろと吹いている

渡辺かおる

一人では生きてゆけない真むらさき
院内も見えない恐怖に吹雪かれる
動けないそれでも足は前を向く

吾亦紅 

列島のクレバス君の不在票
斉唱のはるかに雪を呼び寄せる
まだそれは生きる希望よ花の兄

阿川マサコ 

象の鼻より長いラインメール来る
「息災か」何度言ったかこの睦月
とりあえずここは微糖コーヒーで

浅井ゆず

立春大吉むさぼり食う日到来
背徳の独り反省会更けて
LGBT講座マジョリティの夜

朝倉晴美

牛乳の甘さ冷たさ誕生日
助手席に気持ちを置いてきたごめん
啓蟄や おとうとの自然解凍

石野りこ

わたくしのねこのあくびはラベンダー
ヘッドホン個室に入る装置です
泣けてきた文字のない天使な手紙

伊藤聖子

踏まれても踏まれなくても石は石
ため息と希望重ねて未決箱
堕天使がふわりと僕の背を撫でた

伊藤良彦

堂々とくねくね歩む蝸牛
近未来黒い服着たマーメイド
嗤ってる黒マーカーの下の文字

稲葉良岩

海ざわわ頬に刺さった波ひとつ
語らいながら上包み脱ぎながら
漂流中ひとつ鎖の目をおとす

岩田多佳子

無力な手やり場なき夜に冬の雷
いつかきっと千人力の母の笑み
植木鉢の花芽大事にしあわせに

海野エリー

煮え切らない男の作る鍋料理
言い出せない言葉はいつもちゃんこ鍋
じいちゃんが鍋焼うどんに浮かんでた

おおさわほてる

わたしとかあなたとかいてご来光
元日を壊す理由を問い質す
芸のない骨でお屠蘇をいただきます

小原由佳

総 評 2024年2月 西田雅子

第31回会員作品から

続きを読む‥