かなしみふたつひとつは赤い実をつけて
西条真紀
意味も表記も平明で、
口ずさんでみれば
わらべ唄のようにかなしく、あかるい。
ふたつ、ひとつ、つけて・・
リズミカルに続く「つ」の面白い働き。
くちびるすぼめて、くちばしのかたちで
「つ」といえば
こつんとかたい音になり、
そのまま、赤い実をついばんでみたくなる。
そうすればわが身のうちにも
ぽっと赤が点りそうで。
本作は、1987年(昭和62)に発行された
岡山県川柳作家百句抄シリーズの
西条真紀集『赤い錠剤』に収録されている。
髪洗う 長啼き鳥のこぬうちに
遠雷や子ばなれできぬふたちぶさ
最後まで隠し通せよ膝がしら
闇にまぎれて壁画の鳩をみな放つ
春くるまでこの手離さず眠るのです
本書の解説は片柳哲郎。
その冒頭に、著者のこんなエピソードが紹介されている。
「S43年9月、七十七歳の不世出の名川柳作家・川上三太郎は
衰えてきた心臓の動きを覚えながら、
主宰する「川柳研究」に、
老いて痴れ飯食う膝にポロポロポロリ 川上三太郎
と載せた。同じその号に
西条真紀と名乗る一女性の作品が、
この三太郎の選を経て初めて活字となった。
歯型の消えるころ還りくる谺 岡山 西条真紀
(略)それから三ヶ月、限りなき寂寥を包む
この一句を発表した一代の名作家川上三太郎は、
多くの門下生に見送られて亡くなり、
その三太郎によって心の中に灯を点された
一女性の方は、巨匠の選によって教えられた
自己表出の虹を目指して一気に羽ばたいた。」
六大家の一人、川上三太郎の死もまた
川柳界に大きな節目をもたらした。
当時を本書でこのように記した
片柳哲郎の視点も興味深い。
(岡山県川柳作家百句抄
西条真紀集『赤い錠剤』手帖社 1987)
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