2024年3月

悪いもの食べても悪い人じゃない
片棒を担いで味のないスープ
落ち着きのない人用の内廊下

小原由佳

瞑想の裸木をそっと抱いてやる
悩みなどどこ吹く風の黄水仙
狭き門ふわりと蝶が超えました

笠嶋恵美子

調律もできなかったねドミソの「ミ」
闘志など無いのに豆苗は伸びる
三つ目の雫を海に送り出す

桂 晶月

百舌鳥鳴いて味方につける低気圧
蕎麦すするジャズとセッションするように
にこやかに縁切寺に梅が咲く

川田由紀子

板チョコも紅白梅も湯煎され
寒卵うつらうつらと転院す
図書館の椅子の鼾が物語る

河村啓子

抜け感を探す去年の福袋
「了解」の束整理する日曜日
暮れ渋るブルーライトの残像と

菊池 京 

おひさまを確かに浴びていたあの日
怒りの黒許しの白透きとおる涙
春よ来い虹色を持つこの子らに

北川清子 

サイレント映画のような夕ご飯
誘惑はとろり飴湯の優しさで
右耳のピアスの穴が閉じて 春

黒川佳津子

イカロスと手を取り渡るうすらいを
雛の間にづづと牛車の前のめる
人の居た午後の匂いのヒヤシンス

黒田弥生  

輪郭をぼかして風のとおりみち
地球とは八千日のばかし合い
つららから浦和二中にヘルスケア

河野潤々

とりとめのあやとり水になるまでの
自然体めく巻貝の日記帳
嘘ひとつふたつみっつとまだあるわ

斉尾くにこ

きみの滝の音きこえる春だから
絶妙なスタバの水が揺れて 完
春は名のみにオルガン弾きがやってくる

澤野優美子

幸せになろうねというサナダムシ
一月のどこかに梅は咲いている
初夢は初夢として星光る  

重森恒雄

裏切りの友を許して朝の酒
ハグすれば震えてしまう下心
後ろ指さされた背なにサロンパス

杉山昌善

獣道抜けて袋小路走る
悪さして来た顔をするくすり指
迷彩の色えんぴつを探しています

須藤しんのすけ

明かせない恋を煮詰めたビターチョコ
好きなんて急に言うから乱反射
ブランデーをかける余らせた時間

フレイルは冬の蠅にもなめられて
誰も知らない金平糖の氏素性
エピローグ桜前線くる前に

浪越靖政

別添の青い夕陽が眩しくて
もめごとをまるくまとめる溶き卵
読みかけの春のページは大あくび

西田雅子

君の指それはもう宇宙です
涙があったかいなんて、ザンコク
如月の歯ごたえのない太陽

西山奈津実

腕っぷしなども買われて雛祭
枝垂梅遠縁からのお呼びだし
吸殻を三つのこして鳥雲に

芳賀博子

ファンサです ご自由にお取りください
ペン先を変えて弱くなる自意識
引鉄はいつだって笑いたいだけ

橋元デジタル

意地っ張り取り残された仏さま
カラフルな冬の装い古稀過ぎて
紅梅が咲いた散歩に誘ってる

林 操

ビー玉が転がる今日も正確に
「その世」ではAIが血を流しよる
液状化神さまどこに行きなした

飛伝応

何となく歩幅とリンクする余命
開き直り眠れないなら眠らない
平凡で少し歪んでいる家族

平尾正人

如月の教室 手強いHB
亡母の声「中国地方の子守歌」
生きておる固定電話が鳴っている

弘津秋の子

恩返しならばハバナへ逃してよ
許さないみだりにワルツにはしない
アイラインはグレージュ おぼろになる準備

藤田めぐみ

お時間ですとトンカチが現れる
リハビリはカニ道楽がいいという
居眠りをする専用の椅子だった

藤山竜骨

立ち往生草履投げるか右左
老いた妻夢の世界を浮遊中
老いた妻と春陽あびておままごと

堀本のりひろ

レントゲン凝視しているレンゲソウ
忘却の皿は魚の形して
限界をマークシートで乗り越える

真島久美子

咲かねば咲かねば盆栽だとしても
滝行のしぶきの先の進化論
やわらかいまた逢いましょうあかり坂

宮井いずみ

推し人は清少納言春の雪 
雛祭り半島はまだ揺れている 
遊行期のとろり溶け出す海馬体  

もとこ

満天のないしょばなしにかこまれる
犬が見ているのでちゃんと暮らします
詳細は忘れたけれどあいしてる

本海万里絵 

きさらぎの光と翳を仕分けする
パスワードなんでしたっけ春霞
カランひねればカランコロンマカロン

森平洋子

切ない心満たされぬまま月沈む
曖昧に笑って返事するススキ
如月に衿引っ張られ背を曲げる

森 廣子

勾玉の青はときどき海になる 
たおやかに点呼はじまる雛の部屋
ようこそと楼閣までの春の泥

山崎夫美子

香水をいっぱいかけたお爺ちゃん
つまづいていいじゃないかは若いうち
笑顔ならなんと言っても八代亜紀

吉田利秋

川氷言えずじまいをひた隠し
ラプソディでRock youでとけた雪
憚らず泣けばよかったのに椿

四ツ屋いずみ

いつか立派な大人になれるはずだった
交換日記 お話ししてねおばあちゃん
あの日の日記背表紙までも泣いている

渡辺かおる 

病窓の夜明け大きな雲間から
想定外たのみのつなは片栗粉
正しさはとても小さな丸でした

吾亦紅

鉄棒の匂いまだ帰れないおうち
蝶番の冷たさたどる指であり
さよならの手のひら白かった

阿川マサコ

斑雪記憶のドアの半開き
まりをボールに持ち替えたのはいつだろう
春の沼迷いは息をひそめてる

浅井ゆず

radiko大音量吉田美和見参
思考の整理学バレンタインデイ
ジェンダー論文を検索あっ雨水

朝倉晴美

二年間 日にち薬を飲んでます
もう起きちゃいかがですかと過去が鳴く
チョコポッキー詰まった音と伸びる音

石野りこ

伏せてある湯呑み茶碗にある失意
残高が気になる細い赤い糸
迷路から春の列車が出るシュポポ

伊藤聖子

夜汽車から聞こえる唄と時刻表
人間をカードのように取り換える
句読点それから先に進めない

伊藤良彦

長生きをしていいのかで悩んでる
広過ぎる鍵穴だけの緩い問い
喜ばぬふりはもう止め誕生日

稲葉良岩

余呉湖ゆく私のさきの鳥が主語
吐露晴れて発車のベルをきいている
橋だったころの兄たち復元す

岩田多佳子

約束は今日まで薔薇の花活けて
何処までも飛びたい羽に風は良し
ケーキ焼くこれは私のためだけに

海野エリー

牡丹雪宿して君を待ちわびる
ありったけ水仙抱え母となる
乳房から雪をもらって椀に盛る

おおさわほてる 

会員作品を読む 2024年3月 西田雅子

第32回会員作品から

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