2024年4月

雪融けて修治はやがて小説家
先生は春の顔して石になる
菜の花でテーマパークがわからない

おおさわほてる

質感は母方寄りのティーカップ
完全に溶けてやさしいおせっかい
お仕事を一旦辞めて大雪原

小原由佳

開かずの戸つくづく伯母に似てきたな
ロケットはその先アスパラガス伸びる
口笛を吹けばここよと蕗の薹 

笠嶋恵美子

ストリートサックス免罪符のように
新しいお面で今日の森をゆく
ワタクシとワタシ 結んでいる紙縒り

桂 晶月

バチカンの横から入る立ち飲み屋
棺みな新天地へと運ばれる
狸汁のレシピ同封いたします

川田由紀子

叡電と嵐電 ビスキュイサンドする
七十年生きてブランコが軽い
死に水を取りたいなんて言う豆腐

河村啓子 

アイコンは中指立てた堕天使に
極上のトリュフを塗す既読無視
会者定離ミニマリストの端くれで

菊池 京 

嘘つきが月を四角くさせました
君何言ってるの信号は緑
だからねわざと濁らせておしまいよ

北川清子

シャツの裾ひらりと春を掴まえる
逃げ足が速い男のいいリズム
四川麻婆 腸がほどけてしまいそう

黒川佳津子

有象無象繰り出す春のスケジュール
ヒロインの鏡深夜に挿げ替わる
紫木蓮ゆうべの夢におののくよ

黒田弥生

依れたシャツ着て新しい靴を履く
言い訳はバッサリ提供はポカリ
肩書とピクトグラムに近藤です

河野潤々

裸木をくまなく包む自然光
銀漢の一滴双葉へ触手へ
くつろいだサボテンとろり生卵

斉尾くにこ

チェルシーも空も泣き虫かみさまも
あけがたに帰すあなたと来る四月
✕でも〇でもない君の△

澤野優美子

何か言うための五分が過ぎてゆく
何処へ行く心算か犬を撫でながら
次の駅あたりで降りるのがルール

重森恒雄

右目から左の目へと架かる虹
どこまでも逃げてやるぞと流れ星
煮詰まった話から出るうまい出汁 

杉山昌善

また白い絵の具で白い雲を描く
セーターの黒からたたかいの匂い
羊羹色の夕陽を食べに行かなくちゃ

須藤しんのすけ

少々メタボで金魚鉢の住み心地
前世の記憶が残るアバラ骨
スペアキーいつまでも呼んでくださいな

浪越靖政

サムライがちょっと立ち寄る桜カフェ
春愁を色と匂いで図解する
あの日の旋律刻んでいる木目

西田雅子

圧縮したら桜の花になる痛み
たとえばはヒト脱ぐ前に聞きたいわ
積荷から落ちた抒情はおまけです

西山奈津実

春の塔すべてが剥離した後の
蓬餅性善説にやや加勢
紙厚を確かめこれは舟用に

芳賀博子

オン・オフの間に潜り込む仔猫
もうパイは焼かなくていい夜明け前
横顔で決める食えるか食えないか

橋元デジタル

関西を脱ぎ捨て散歩坂の街
上るより下りが苦手靴を買う
サクサクと用事済ませてエトランゼ

林 操

粗熱をとらずに喜寿をやり過ごす
たかってた方も狸で眠ってる
推敲のあとを見せずにカタカナ語

飛伝応

充電中のまま後期高齢者
一番星になった電池を入れ替えて
耐えて耐えて耐えていくしかない輪ゴム

平尾正人

外出許可証 眠れない人形
ヨガ体操脚の長さが邪魔である
ブランコに座ったままでいい?風よ

弘津秋の子

花鋏幹事ばかりはもう卒業
物語はずっとあなたを見ていたわ
なんかそれなんかすね スフレ萎んで

藤田めぐみ

理不尽が悔しい淑やかな鈴と
馬鹿野郎と鈴が叫んでいるのです
鈴はもう米国行きを決めている

藤山竜骨

春菊の香豊かに夕御膳
手こずった我が子一人前の社会人
老いた妻と子供に返りおままごと

堀本のりひろ

船を降りなさい理系も文系も
疑似餌でもいいよ今日から四月だし
創世記開くと水が湧いてくる

真島久美子

逢いに行く春の匂いのモヘヤ着て
春色のページをめくる蕗の薹
天気図がドミノ倒しの春嵐

峯島 妙(妙 改め)

羽ばたいてみても行き着けない本屋
ああこれは翼とどまる者たちの
2024、夏。出口は右側へ

宮井いずみ

みずがめ座あなたの星の位置情報
部屋干しのガリバーのシャツ歩き出す
句読点打たずにメール差し上げる

村田もとこ(もとこ 改め) 

すき、きらい、だけで生きてたきみが泣く
両腕にいっぱいの星こぼれてる
好きな味みつけては食べさせる母

本海万里絵

新生活ハンドソープの苺の香
コンプラの有刺鉄線くぐる風
ピーラーで剥くやるせない過去の淵

森平洋子

覚悟が見える百舌の早贄
けだるさの中で喘いでいる桜
春風にいつも置いてけぼりに成る

森 廣子

意味深なルビたわむれにノンシュガー
居心地の悪い真昼の花畑
セーターを解けばこぼれだす時間 

山崎夫美子

後期高齢がっかりするのまだ早い
がっかりがドッキリそしてパラダイス
がっかりは禁止じいちゃんがんばろう

吉田利秋

雪解ですってふいに3羽の羽音のみ
トナーカートリッジ替えるミモザ色
PM2.5たなびく龍は天へ

四ツ屋いずみ

今日の新聞明日は古新聞になる
携帯に携帯されている私
中指のあかぎれ消えてふきのとう

渡辺かおる

私から離れていったワタシタチ
起ち上がるガラスの靴を脱ぎ捨てて
角ぐんでみよう大地の子の顔で

吾亦紅

ダメ押しをされて蕾のポッポッポツ
涅槃まで細い嘆きを曳いてゆく
無人駅前後左右の桜雨

阿川マサコ

貴女という呼びかけで来る春メール
木瓜ひらく神様よそ見してる間に
リベラルはもう死語なのかモカコーヒー

浅井ゆず

ジェンダーの講義職場はバレンタインチョコ
バレンタインデイ撲滅女子わたし代表
ホワイトデイ晴れるとか特異日とか

朝倉晴美

フロアガイドを辿ってもまだ真冬
図書館の一冊となり君を見る
選択肢三つふわふわ春の森

石野りこ

おひつじ座ことばになりたかったのに
春風に伸びるらくだのつけまつ毛
胡蝶蘭言葉になりたかったけど

伊藤聖子

憂鬱を煮込むと冬の味になる
期末日の姿でしょうか鯵フライ
風見鶏だって飛び立つほら四月

伊藤良彦

痛点を押すと鏡に父の顔
毛筆で寝返りを打つ春日向
初恋はマーブル柄の竿に干す

稲葉良岩

渇く手のたぐり寄せてるつぎの駅
うっかりと小さな核をにぎっている
さよならと金属音の姦しい

岩田多佳子

菜の花あふれやさしさという愚痴
芽吹くころ素数にもどるはずだから
正論ばかりちょっと苦しくならないか

海野エリー

会員作品を読む 2024年4月 西田雅子

第33回会員作品から

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