今日の一句 #642

笑ってる写真が少なくてわらう
月波与生


みんながピースして
はいチーズ!で笑っている中で
一人、しぶしぶの素(す)で写っている。
そういや幼い頃からずっとこんな感じだったな、
とアルバムを繰りながら、わらっている。


下五の「わらう」は平仮名表記ゆえ
笑う、嗤う、微笑、苦笑など
読み手の中でも複雑にニュアンスを変える。
写真は苦手で、人に合わせるのも不得手。
そんなキャラクターを

自嘲しているようで、ひそかな自負も伺える。

気になるのは、数少ない「笑っている写真」の方。
それはいつの。誰との。

はたまた誰にカメラを向けられて、
こんなに不用意にいい表情をみせているんだろう。

掲句は、先月発行された月波与生氏の第一句集『ライムライト』より引く。
版元は氏自身の立ち上げたレーベル「満天の星」。

 謝らぬ猿の乾電池を換える
 星空を羽織れば父になる祭
 鍵盤連打薬莢の音ばかり 
 戦争も平和も肉を焼く匂い
 きみと見るライムライトのような月 


時代の緊迫にさす詩性のひかり。


(月波与生川柳句集I『ライムライト』
満天の星 2024年)

   

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