今日の一句 #645

不時着の木綿豆腐に頼り切る
千春


確かについ頼りたくなる。
木綿豆腐、頼もしいですもん。
メインでも脇役でも
与えられた役割をひょうひょうとこなし、
しかも決してドヤ顔などしない。
だからわが家の冷蔵庫でも
常にスタンバってくれている。

ただ、ウチのは近所のスーパーの豆腐。

一方、掲句は不時着の木綿豆腐!
な、なんてロマンチックなんだろう。
と同時になんてリアリティがあるんだろう。
「不時着」と「木綿豆腐」という、
本来乖離しているはずの二つのことばが

ごく自然に結びついて、キラリと詩になり、
胸におち、笑みを誘う。


本作は、千春氏の新刊句集『こころ』より引く。
日常のあらゆるも、宇宙の営み。
一人一人のこころよりうまれ、あふれでるものもまた。


そんなことをしんしん思いながら
ページをめくりながら
ふと句をつぶやいたり、
誰かにささやいたりしたくなる句集。


 弟が流星群を投げてきた
 ジャズ聴いて浴衣は緩く翻る
 ハンバーグ夏至の二人の過ごし方
 「負けました」その片膝が欲しいです
 消しゴムが割れる。あなたを離さない



(句集『こころ』千春 / 港の人 2024)

   

過去ログはこちらから▶