2024年7月

草笛を奏でる神と出会う朝
湯加減はいかがですかとSiriの声
隕石をamazonで売る地球人

稲葉良岩

パン生地にプラトンの息混入す
年齢不詳銀河ぽろぽろこぼしつつ
マクラメを辿るむやみな靴はいて

岩田多佳子

向日葵の伸びしろ期待しています
思い出はそうっと海へアロハシャツ
手ごわきはドクダミの白長期戦

海野エリー

懲りましたもうカタツムリやめました
牛蛙じぶんの影を踏んでいる
新妻を連れて燕の街に着く

おおさわほてる

パリパリと水菜不用意な相槌
ムスメ三十しまじろうくんも独身か
滑稽な会話のままで深海へ

小原由佳

菩提樹の花の香まとい妹が逝く
そのことに触れると涙腺がゆるむ
月の舟しずかに昇ってゆきました

笠嶋恵美子 

アイロンをかけておこうか白旗に
ボトルシップの中で議論は続く
妄念を引き受けている多面体

桂 晶月

読み終えて潮の香りのする手紙
きんつばも日本の夜も薄くなる
テッペンカケタカ今年の夏を覚悟せよ

川田由紀子

円墳のあれはカヌレと違うんよ
バリスタに淹れてもらった梅雨晴れ間
夕方の寂しい眉になっている

河村啓子

雨垂れの罪なリズムに飛蚊症
見え透いたリール動画の不発弾
海馬から欠片集めて夏の陣

菊池 京

レモン絞って搾ってあんたを縛って
そしてひとりれもんにこさんこよんこ
夏至の夜の檸檬しぼりにある光

北川清子

なんやかや吸って乾いて豆絞り
広がったほころび手繰り寄せ生きる
葛饅頭ぷるるるるんと逃げ切った

黒川佳津子

アナベルの海を漂流以下余白
部屋干しの刺繍ハンカチ蝶の鬱
そぼそぼと濁ったベガのアイスティー 

黒田弥生

ゆびきりのゆに六月のぼたん雪
筋トレにさくらでんぶの以下余白
桃毛茸椅子の冷めない距離はいや

河野潤々

カーテンがラフに着こなす初夏の風
霧雨のボサノバ既読は付かない
つま先が奏でる陽炎のソナタ

斉尾くにこ

ウールマークに寝息の色を決められる
金箔は詩人に丸美屋は貘に
摩周湖に半額の月落っことす

澤野優美子

最後には出会えるものと濡れている
父が見た風景の匂う灰色
天国の朝日を七度見て落ちる

重森恒雄

今回も初恋という自己暗示
単線のレールはどこか温かい
「そうだんべ」つい口を出るローカル語

杉山昌善

人事課の水が一番美味いらしい
極楽の五キロ手前に咲くサクラ
舞台裏八十億人の主役

須藤しんのすけ

熱帯夜赤いきつねが逢いにくる
いうなれば緑黄色のアーティスト
日替わりのボキャブラリーの使い分け

浪越靖政

猫のひげ日がな一日雨を編む
ひとひらの祈りとなって飛来する
真夏日の残像、あるいは始まり

西田雅子

狂気ではまだ鈴蘭に負ける虹
正論は木綿豆腐にまかせなよ
野心家のあじさい 正攻法のひまわり

西山奈津実

人形に内蔵されている夕立
適性が無いなら無いで冷し瓜
結論は出ずかなぶんの乱反射

芳賀博子

分別はない神話でも破ろうか
祝福のキス銃口へすり替わり
つむじ風掴み損ねて犬の舌

橋元デジタル

合歓の花ポワンポワンと道しるべ
枇杷の実ポタリ枇杷酒の道もあったろに
懐のキツネ時々悪さする

林 操

AIが詐欺ってすごくないですか
気をつかう人だ すかさず閉ボタン
昭和生まれと一からげに呼ばれ

飛伝応

切り取られた言葉が一人歩きする
すぐ返信しなけりゃ殺されるライン
じゃんけんに勝っても敵は敵のまま

平尾正人

逢いたいねアッと離れてゆくボート
町内会お隣りの名が出てこない
広島生まれ 姓の字は弘津なり

弘津秋の子

しゃらくさい男のシャインマスカット
チャプターの切れ目で渡す手切金
微粒子にされるならなお生のまま

藤田めぐみ

大盛りをペロリ只今旬である
あーんしてスプーンで運ぶ養命酒
クルーズの旅でひとりを噛みしめる

藤山竜骨

妻冷ややかに!所詮は他人突き放す
脱線ばかり迷える蝶の行き先は
支えられても未だ読めないマイワイフ

堀本のりひろ

猫パンチしているうちに逃げなさい
五十音順に働き蜂になる
例外になったアタシをつまんでポイ

真島久美子

誰も触れない五番街のマリー
あなたには戻れないよう石を積む
こめかみのほくろにやどるふしあわせ

峯島 妙

ボタニカルアートの中の鼓笛隊
分蜂の予感ラムネの栓を抜く
バナナパフェとは白南風の通り道

宮井いずみ

フランスのかたちのしみをぼかしとく
狂王の城のざわめく深い谷
あじさいの鞠揺れやまず青ガエル

村田もとこ

オムレツに書かれた文句ごとおいしい
はやくきてこれしかないっていうかたち
ようこそ星カーテン開けたまま眠る

本海万里絵

ジャムの蓋開かないときのあの感じ
わたし的コミュニケーションの透かし編み
青もみじ淋しいことは置いといて

森平洋子

香水の瓶に未練がまだ残る
示唆も無く手探りをして生きて行く
いい日を呉れた太陽のエピローグ

森 廣子

仏頭の哀しいほどのがらんどう
たそがれの本屋の前の空き家情報
風みどり税務署からの封を切る

山崎夫美子

水曜は山田霊苑休みです
新子先生お花は次回まで待って
お墓参り送迎バスがベストです

吉田利秋

くたびれた愛は染め直そう藍で
梅たちのプライド銀の水膜に
カーテンの隙間から夏至のうずうず

四ツ屋いずみ

六月は雨に捨てたいこと忘れ
途中から吹っ切れていく凧になる
ラジオネームは焼きそばかおる 弾けます

渡辺かおる

どの道を行っても待っている覚悟
信じると信じたいとの間は二秒
ゆったりと今日の心を座らせる

吾亦紅

強化飯いきつく果ての地雷原
蟻蟻蟻この世にさめて黙々と
紋黄蝶するり葬列さかのぼる

阿川マサコ

梅雨茸わんさ忖度世にわんさ
いい雨と言われたいんよ雨だって
ころんころん今の私はミニカボチャ

浅井ゆず

雨上がり他人が好きよ人が好き
母娘紫陽花屋敷別棟に
四方八方生家の隣売り地なり

朝倉晴美

たけのこの里ときのこの山の思考癖
湿布薬の白と黄色とピンク色
百年を風に吹かれる付箋たち

石野りこ

静止画のままで旅立つ小鳥たち
自己否定するために出て行く廊下
ロッカーに置いてある絵本の黄色

伊藤聖子

任せたら未練を捨てて死んだふり
海賊になれる気がするカリブ海
百年は沈没船の一時間

伊藤良彦

会員作品を読む 2024年7月 西田雅子

第36回会員作品から

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