今日の一句 #682

パン屑のような約束だったのに
竹井紫乙


パン屑のような約束、って。
たとえば、取るに足りない
ぱっと払ってすぐ忘れてしまってもいいような約束を、
律義に守ってくれた。
あるいは自身が守った方かも。
一読、胸の隅がキュッとした。


「パン屑」は、食べものなのに屑。
でもことばの中にはちゃんと、
パンのぬくもりがあり、味があり、
絶妙なせつなさや優しさを醸し出している。

本作は竹井紫乙氏の第三句集『菫橋』より引く。

ところで竹井氏は昨秋、
詩集『プリンは置いといて』(七月堂)を上梓し、
こちらでも注目を集めている。
松下育男氏の栞には、
「詩を読むことはなんと楽しいことだろう。
そしてこれは、なんと稀有な才能によって生みだされた、
なんと香ばしく甘い詩集だろう。」


詩集に広がる竹井紫乙の新しい作品世界。
あなたも、分け入ってみませんか。


(『菫橋』 竹井紫乙 / 港の人 2019年)

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