2025年8月

なつかしい日記を掛け布団にする
丸かじりしてやるあとはまかせなさい
いつもすぐそこにあるはずだった声

本海万里絵

夏向きにつむじの向きを微調整
タンブラー跳ねる氷の流星群
執着を手放した日の蝉の声

森平洋子

思い出のつい取ってある桜貝
ペアで買い未練で残るマグカップ
要りません美人になれる化粧品

森 廣子

アマリリス迷路脱出記念日に
花梨酒の琥珀におぼれ外は雨
熱波来て心模様に海がない

山崎夫美子

神さまと将棋したいと聡太くん
聡太くんより長く将棋をやって来た
一生川柳アンド一生将棋ナウ

吉田利秋

王子様来るよ 大デトックス後に
スンとしたカモメ翔び交うvacation
野をかける子供になりたい夏となり

四ツ屋いずみ

あんたかてエライうちかてエラインヤ
わたくしと寝食共にする 偉い
アオダイショウ暑い暑いと川遊び

渡辺かおる

立ち止まり明日のためにまた解く
書くことも書かないことも人ヶ淵
夕焼けに日々更新となる まさか

吾亦紅

アジサイはもうチョッキンよ油照り
AIは今は友だちなんだけど
淡竹枯死 里の未来が見え過ぎる

浅井ゆず

管理職西日の中の密談
折詰の数不満線状降水帯
管理職それ折衷案知らんけど

朝倉晴美

八月のぶつかり合っている玉子
山からの風を通して形見分け
大規模修繕方法は二種類

石野りこ

買うよりも捨てる勇気の難しさ
信じるかそれとも木偶になりきるか
だとしても白紙委任は出来ません

伊藤良彦

背伸びせぬキリンを蹴った蒼い夏
ドーナツの穴に埋まった戦争詩
蛇口から出るのは蛇だけになった

稲葉良岩

はじめから夏のかたちに積みなおす
ろくろ台まわせば姉が立ちのぼる
明暗法にのっとり童話いそがしい

岩田多佳子

ミックスピザ切り分けふたり分の自由
凭れても良いとなんじゃもんじゃの木
ラズベリー煮詰めハッピーエンドとす

海野エリー

昨日から俺を呼んでる雲の峰
帰宅部も優勝メダル雲の峰
私たちただ今羽化なの蝉だって

おおさわほてる

シーツにアイロン夏はお好きですか
上昇気流きれいな病名ですね
夏の夜の稲妻 胸の手術跡

大竹明日香

暗黒を朝が来るまでスクロール
煮詰まると瓦せんべい割っている
恙無く七月八日天の川

小原由佳

どくだみの花の白さへ十字切る
一波乱おこす隣の酔芙蓉
万両の花に呪文をかけておく

笠嶋恵美子

妄想が踊る破れた裏表紙
修羅場へと厚底サンダルで進む
神様の言う通り隠した手帳

桂 晶月

ミルキーウェイ歩く抜き足差し足で
泣いているAIぐっと抱き締める
大輪の朝顔夜も眠らない

川田由紀子

火曜日を日曜日だと言い張って
真四角にされた西瓜が売れ残る
横座りした男と食らうマスカット

河村啓子

ラジカセで聴く君といた十二色
雨垂れの一人芝居を観て畳む
大海を照らすコバンザメになって

菊池 京

恋バナの20や30桔梗咲く
二人いや三人四人殺めているかも
ひとりきり本の世界へ霧の家

北川清子

決心を変える気はないアマリリス
アガパンサス集合体恐怖症
真夜中のチャイム天使の声音して

黒川佳津子

異界よりふるふる届く夏ギフト
嗣治に催促される天花粉
紫陽花の一歩も退かず立ち枯れて

黒田弥生

タイミーの洟をすすればバーミヤン
禁忌肢の道玄坂で割るくるみ
体幹のぽこぺんもんぺ色落ちす

河野潤々

出会いまで巻き戻してく戻してく
サイリウム振って奥底ゆるがして
幸せの範囲お醤油ひとまわし

斉尾くにこ

芋虫が散歩しているパスワード
空っぽの洞に流れるブラームス
雲はもう終わろうとする全十話

重森恒雄

お握りの中身を知ってする正座
安楽死 推薦状は持っている
進化論 疑っている尾てい骨

杉山昌善

金魚鉢抱え間違えだらけの日
埋もれた骨から歌いだす真夏
それは昨日の言霊でした

たかすかまさゆき

胎内回帰左左へと目指す
いつものところいつものように 迷う
「目を開けてごらん」閻魔の声がする

浪越靖政

ひまわりにすべて溶けゆく形容詞
五線譜に蔓を這わせて黙秘する
雨だれのつぶやきに似た終わり方

西田雅子

包み解くようには怒り出ていかぬ
その闇は生まれたてなの触れないで
屈伸をしないと折れる水平線

西山奈津実

立ちどまる森の声はきんいろだね
ソーダ水きらきらさせて待っていて
月光できっと文明は滅ぶかも

温水ふみ

一択のほころびはじむ蝉時雨
この星で生きてくための付け睫毛
大西日あすから回顧展後期

芳賀博子

雷が去ってトマトにかぶりつく
たらればを言えばきりない夏休み
墓参り温度差のある君と僕

林 操

すり鉢の底に憎悪を置くが良い
出口調査で正直ウソを言いました
出口では保守の顔してますが何か

飛伝応

言葉狩りだろう言葉が切り取られ
ひとことで救われひとことで挫折
驚かなくなった驚くことが増え

平尾正人

七月のお水はぬるしホーホケキョ
睡眠薬きちんと幕は下りてゆく
とんとんとん反応しない頭蓋骨

弘津秋の子

遺跡から飛び出してくる伝書鳩
地下道を上がり日傘を差す戦士
偉そうな大胸筋に道譲る

藤山竜骨

あの世でも杓子定規に苛!かな
思いどおり動けぬこの世疎ましい
世間の風に吹き飛ばされた流恋草

堀本のりひろ

まあいいか夏は暑いし熊いるし
追姫がするっと逃げるはじかれる
天気予報はずれビニール傘乱舞

峯島 妙

快晴のシーツ洗う日きゃべつの日
ダンベルは2Kgあくまでボールペン
急須なら一緒に泣いてくれるはず

宮井いずみ

会員作品を読む 2025年8月 西田雅子

第48回会員作品から

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