2024年11月

秋の昼またチコちゃんに叱られて
金木犀私はいつも次点やで
コンマスの涙とヴィオラ銀木犀

朝倉晴美

点滴の終わり待ってるミニかぼちゃ
秋桜のググる秋桜の種類
秋桜の訴えた風力発電

石野りこ

さよならは言わぬ来世はあるさ 
秋新しいお皿が増えて丸くなる
賑やかなひとりぼっちの乾電池

伊藤聖子

延々と赤信号の待避線
昼寝する電車の屋根が眩しくて
切符とは歴史の中の1ページ

伊藤良彦

惚れ薬メインディッシュに振りかける
今朝書いた文字が剥落してる夜
穭田の新芽に励まされて冬

稲葉良岩

銀河へと発車オーライ朝ごはん
論点のまだ目覚めない布バッグ
どこまでもレール大地を離さない

岩田多佳子

しなやかに今日の風向き変えておく
寡黙なる男にワイン注ぎ足して
焼林檎かなり熱々誰がための

海野エリー

風に会うヌスビトハギと連れ立って
月が出た街中みんながジャズバンド
失恋の月光一つ落ちていた

おおさわほてる

どうしよう短い秋の過ごし方
計画が崩れる音と雨の音
痛いとこ突いてくるよね親友は

小原由佳

花だったころの記憶が残る部屋
壁紙の隅で光っている蛍
読点を打つ間に秋が逃げてゆく

笠嶋恵美子

譜面には無い音がする十三夜
妄想の海はピンクの水かきで
迷路だと知っててカナリアは鳴いた

桂 晶月

蓮根の穴に願いを込めなさい
光らない星の見事な終わり方
大仏の耳が小さくなっている

川田由紀子

本当に穴があいているのです秋
金木犀秋の番地に満ち満ちて
咳払い聞こえたような父の席

河村啓子

ぶつかって歪な風穴が空いて
ターン式レンジを探すわだかまり
黙祷の輪郭に降る小糠雨

菊池 京

薄幸を醗酵させて発光よ
冬来てもそうじゃ無いかもしれないじゃない
ことば持つことば待ってる死なないで

北川清子

スペシウム光線 兄が来てくれる
妻の座は居心地が良いアマリリス
時化の夜ボトルシップの銅鑼が鳴る

黒川佳津子

秋冷や縦に伸びたる水鏡
りゅうぐうも水の惑星水澄めり
丸皿に檸檬絞りて星月夜

黒田弥生

妄想のシフトノブからプノンペン
行間に差し込み家政婦にプチシルマ
ブランコがとまると今が立ちあがる

河野潤々

おめかしをしてポタージュのクルトンに
好感度ましまし鹿の目の きょとん
蒼々を下弦の舟で漂流す

斉尾くにこ

時雨くるアップルパイの襞のとこ
佳境にはいる水栽培の空と水
夜味を呼び出すおやすみを言いたくて

澤野優美子

オレンジジューシーな人と隣り合う
夢に見ていた朝が来て木を登る
ただ走り続けるたまに手を挙げて

重森恒雄

センターと別れ話のあるレフト
雷神に喉飴ひとつあげました
コロコロと香りが変わる妻の風

杉山昌善

みみたぶとつまさきどちらかが左党
聞くことのない花の名を教えてあげる
サビ抜きを所望還暦昼下がり

須藤しんのすけ

人類の不幸ノーベル平和賞
「西向くサムライ」振り向けばはや一年
めげ御器に欠け蓋で支え合う歳

田尾八女

鬼灯が欲しいばかりに踊る鬼
眼裏に焼き増しされた象がいる
溶けてしまったペンギンたちは

たかすかまさゆき

新月の出会い満月の別れ
地軸どおりに曲っていく背骨
長押ししても消えない妄想

浪越靖政

枯葉踏む音で崩れるミルフィーユ
随想に混ざる匂いの強い草
光速で閉じられてゆく秋も街も

西田雅子

ロゼワイン言語化されてゆく秋思
イルカ見舞う日のイルカのピンバッジ
手鏡の底に脈打つ大花野

芳賀博子

友の顔浮かべばLINEがスンッとくる
行列に並ぶ時間はたっぷりと
込み入った家系図戦死者の涙

林 操

闇バイトがんじがらめの蜘蛛の糸
肩書は年金生活高齢者
とどのつまりは指示待ちで闇バイト

飛伝応

タオル掛けにタオル幸せごっこ中
睡眠薬飲んでますます眠れない
信じてはならぬ中央分離帯

平尾正人

フツーですよフリーですよ赤蜻蛉
独りウオーク頬の緩みを楽しまん
らくだ句会砂漠嫌いの川柳人

弘津秋の子

割り算の余りのかたちモンブラン
こっくりとして甘くない氏素性
夕映えよ歩けなかった日もあった

藤田めぐみ

血縁の紐がにゅるにゅる追ってくる
警察に五円届ける女の子
曇りのち晴れに番町皿屋敷

藤山竜骨

寿命なんて神のみぞ知る籠の鳥
呆けました異次元界で平泳ぎ
八十路過ぎ虚しく時が独り旅

堀本のりひろ

宝石に見合う宝石箱を買う
パンドラの箱から溢れだす母音
机上にはプロレタリアという骨子

真島久美子

衣替えあの日のシミが浮き上がる
夏風邪を知ったかぶりがこじらせる
ジェンダーが黒秋桜を迷わせる

峯島 妙

ライオンは生き物ライオン橋は過去
指切った話はるかに土星まで
左折した向こうの秋のチングルマ

宮井いずみ

盗まれた指のかけらで弾くピアノ
喧騒の街を見下ろす三十日月
ベルリンの壁のかけらとウクライナ

村田もとこ

うたた寝をしてしまう場所つくります
届かないことを確かめてから寝る
スカートと秋を蹴り上げてくいい日

本海万里絵

空の青過ぎて奇跡は起こらない
ユーミンの校内放送秋揺らす
残月のカヌー漕ぎ出す金曜日

森平洋子

寝坊して叱られている雀の子
寝坊で遅刻いっそ休んで遊園地
寝坊していい日3時に目が覚める

森 廣子

廃校の焼却炉にもいた晩夏
波風を立てて集会所の秋日和
箪笥をひらく吐息は紫式部

山崎夫美子

名刺には川柳人と書いている
名刺には師系新子と書いている
名刺には文秋砲と書いてみる

吉田利秋

バレエってロックなんだよ my friend
フラミンゴ引き連れ逢魔時翔ける
素粒子の好きにさせとく晩秋に向け

四ツ屋いずみ

夢の朝抱きしめている誕生日
黒板は広がる世界わたし宇宙
ソロリと呼んだ亀泳いでる宙返り

渡辺かおる

いざという形に腕は上がらない
空色に鳴いた記憶を閉じ込める
咲き終えて風となる日のシジミ蝶

吾亦紅

全長を縮めて泣くかニンゲンも
新米のおにぎりころり家族譚
夏至冬至ああ転生のマヨネーズ

阿川マサコ

秋澄んで哀しい便りふたつ来る
ウクレレを弾く五十肩四十肩
洗濯日和早く昨日を脱ぎなさい

浅井ゆず

会員作品を読む 2024年11月 西田雅子

第40回会員作品から

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