「頃」という言葉は、日本語らしい、やわらかな時間の表現。ぴたりと一点を指すのではなく、その前後をふんわり包み込む――そんな曖昧さが許される言葉だ。
漢字の「頃」は、もともと中国で「傾く」「しばらく」といった意味をもつ字だったが、字形をたどると、「頭(頁)」を少しかしげ、耳を傾ける姿に由来するとされている。
そこから「少し傾いた状態」、つまりある一点から前後に幅をもつ時間の感覚へとつながっていったようである。
日本語の「ころ」は、古くは「比」とも書かれ、「ある時」「時節」を表す和語だったのが、のちに「頃」の字があてられ、平安や鎌倉の文学では「花の頃」「春の頃」といったように、単なる時期だけでなく、その季節の情緒も含む言葉として親しまれた。
江戸の俳諧、明治以降の新聞・雑誌では「頃」が文章に定着し、今も「三時頃」「あの頃」「頃合い」と、日常に溶け込んでいる。
西洋のきっちり時刻を刻む「時間軸」が入ってきても、「頃」は曖昧さを許容する日本語の魅力的なことばの一つなのである。
四時頃の明るさと相席になる 大月陽星

