総評

2021年8月   芳賀博子

お待たせしました。会員作品第1回をお届けします。
ゆには今年6月1日にサイトオープン。と同時に第1期会員募集をスタートしました。
川柳とはこうだ、なんて決めつけから自由になれば、川柳はきっともっとおもしろい! 
と、柳歴も所属も不問で「この指とまれ」と声をあげたら、全国各地、さらには海外からも参加あり、まさに個性豊かな作品がずらりと揃いました。
会員それぞれの「おもしろい」へのアプローチ、ぜひゆっくり味わってください。

今月の風

アマゾンの女になってEメール
朝倉晴美

このアマゾンは通販サイトのAmazon。ではなく、かのアマゾン川と読むと、想像の景が俄然ワイルドになる。南米の熱帯雨林を流れる世界最大級の河川。流域はいまだ秘境多く、そんな河の名を自らに冠しておもしろがっているよう。かつてのヤワを脱ぎ捨て、心身ともにたくましく生きている我こそは「アマゾンの女」なり。なんてEメールを、さてまず真っ先に誰に送ったのだろう。

判決文 小鹿のように立ち上がる
岡谷 樹

圧倒的不利をくつがえして、正当な判決が出た。立ち上がったのは主人公、あるいは正義そのものかもしれない。その様子を「小鹿のように」とは秀逸な措辞。まだひ弱な、か細い脚をわなわなふるわせながら、つぶらな瞳は明日を信じている。大丈夫。私もキミの味方だよ。

りりりりりりりりばうんどどどどよん
河野潤々

りりりり・・にしれっと「りばうんど」が連なる。さてりばうんど、といえばダイエットより何より、まず真っ先に浮かぶのはやはりコロナ禍だ。緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置云々が発出されたり解除されたり再発出されたり。一体何がどうなっているのかわけわからん上に、猛暑のダブルパンチときた。まこと「どどどよん」なカオスが、オール平仮名表記とオノマトペで視覚的聴覚的にもユニークに表現されている。

目はそぼろ耳はザルそば二本足
弘津秋の子

目はおぼろで耳はザル。を、それぞれ「そぼろ」「ザルそば」に転じた自虐が可笑しい。加齢現象を、もうすっかり開き直ったかのように、えいっと笑いのめしている。トシとともに自分の体が変わっていく、というのは何か別の生きものに進化?退化?していく気分だったり。されどこの二本足。ラクラク一万歩を超えて、まだまだどこへでも歩いていけそう。

ゆうれいになれるドレスのいい香り
藤田めぐみ

牡丹灯籠や番町皿屋敷など、今も語り継がれる怪談の女ゆうれいたちは、おしなべて艶っぽい。
さてもこのドレス、主人公の勝負服とみた。ゆらりぞろりの揺れ具合といい、沁みこませた香りといい、これを身にまとえば並みの姫より、数段目を引くこと請け合い。その後の展開もゾクリと気になる。

日傘くるくるおじさんも街をゆく
藤山竜骨

あ、ここにも「日傘男子」見っけ。けれど、酷暑にうだっておられるふうではなく、「くるくる」がなんだか楽しげだ。本作、「おじさんも」の「も」に含羞があり、近年のトレンドをちょっと取り入れてみました感が、さりげなくイヤ味なくアピールされている。
こんな「おじさん」にときどき他愛ない愚痴など聞いてもらいたい。

ウクレレも猫のトイレもある書斎
宮井いずみ

「ウクレレ」と「猫のトイレ」が、主(あるじ)のキャラクターをユーモラスに物語る。書斎だからもちろん本もいっぱい並んでいる。というわけでふと浮かんだのが令和版・漱石先生。なんかウクレレ似合いそうですしね。ところでウクレレはもちろん季語とかではないけれど、涼しい風を運んでくれる一語。だからか書斎の風通しも良さそうで。

戻れたら最短距離で会いに行く
本海万里絵

もし、あの日へ戻れたら、何のためらいもなく会いに行く。最短距離で、全速力で駆けて。そしてちゃんと思いを伝えたい、と。そんなあの日が私にもある。もうずいぶん遠くまで来てしまって、おまけに生来の方向音痴だから、戻るすべはない。けれど本作の主人公はどうだろう。もしかしたらまだ間に合うかもしれない。ほんの少しなら、時間は巻き戻すことができる。誰にも負けないほど強い「会いたい」の気持ちがあれば。