Vol. 72 淋しい

 久しぶりに遠くに住んでいる90歳代の叔母に会いに行く。
私 「みんながときどき会いに来てくれるから、寂しくないよね。」
叔母 「サビシイ?サビシイって、どんな気持ち?どんな感じ?」

 「寂しい・淋しい」は平安時代までは「さぶし」ということばだったが、平安時代以降になると「さぶし」から「さびし」へ音の変化が。江戸時代以降になると、「さびし」のほかに「さみし」という音も使われるようになる。

 さびしいの語源となる「さぶし」の「さぶ」は、「心が荒れすさぶ」といった意味「さぶ(荒ぶ)」を形容詞化したもの。寂しい・淋しいの意味はほとんど同じだが、「寂しい」は物がない、荒れているといった物理的情景的なさびしさを表現するのに用いられ、「侘び寂び」のように、美的な感覚を伴う場合もある。「淋しい」は心情を表す。

 「寂」の「叔」は、細く小さい意味があり、「寂」は、家の中の人声が細く小さくなったさまを表わす。さんずいに林と書く「淋」は、絶え間なく続く木立に水がしたたることを表している。この「水」は「涙」を表すとも。

 私「夜はよく眠れている?」。叔母「ネムル?ネムルってどういう感じ?」叔母はだんだん哲学者になってゆく。

  この淋しさ何に使えばいいのかな  星井五郎