Vol. 84 匂い

 春の訪れを告げる梅の香り。香しい匂いの「匂い」という言葉は平安時代、象形文字を基に日本でつくられた国字。もともと「にほひ」とは、視覚表現の一つで、鮮やかに赤く萌え出る様子を「丹秀ひ(におい)」と言い表した。

 また、匂いの語源に、「丹穂ひ(におい)」の漢字を当てることも。稲穂の一番先にある穂は頂の象徴であり、優れたものを表す。枝や茎の先にある花は、人間の顔の先についている”鼻”と同じルーツを持ち、花と鼻の言葉の起源は同じで、「先っぽ」にあるもの。

 ちなみに、人の顔のパーツと植物の部分は結びついていて、植物の芽は目、花は鼻、実は耳、葉は歯に対応している。春先に膨らむ芽は、目の形に、成る実は耳たぶを連想させる。並んだ葉は、口の中の歯と結びついたのではと考えられる。さらに、火を熾す際に頬を膨らませたことから、炎(ほのお)と頬(ほほ)が結びついたとも。

 雪の降る中、ほかの花に先駆けて「にほふ」が如く開花する梅は、早春の贈り物。梅は嗅ぐもの、松は聴き、竹は見るものという。古来、日本人の心に自然は各器官とつながっている。

  振ってごらん星の触れ合う匂いだよ  浜 純子

今年もよろしくお願いいたします。