第6回「ゆにゼミ」レポート

万葉集を味わい、

言葉の肌触りを楽しむ。

上野先生のユーモアあふれる話術に

すっかり聞き入りました。

4月16日(日)、万葉学者で國學院大學教授の上野 誠さんをお迎えし、「万葉のことば」をテーマに第6回ゆにゼミを開催しました。

第1部は、上野先生の講演。
題材は、『万葉集』に収録されている山上憶良の「子らを思う歌」。
「瓜食めば 子ども思ほゆ
栗食めば まして偲はゆ
いづくより 来りしものそ
まなかひに もとなかかりて
安眠しなさぬ    (巻五の八〇二)」

この歌の序文に書かれた釈迦の教えも踏まえ、歌の背景にある時代性や憶良の人物像、歌がつくられた意図などを、上野先生ならではの引き込まれるような解説で楽しくわかりやすく教えてくださいました。先生のお話で印象に残ったのは「言葉の肌触り」という表現。「日本の言葉は五・七・五音に区切ることで音楽的な詩の言語になる。それを残しているのが万葉集であり、万葉集を目と耳で味わうことで、私たちは言葉の肌触りに触れることができる」と解説。確かに先生の朗読を聴くと、万葉びとの言葉の温もりが心にじんわり触れてくるようでした。そして、令和の時代を生きる私たちにとって、今の言葉の肌触りを感じることも大切だと気づかせてくれました。

第2部は、お楽しみの川柳句会(「集」の題で事前投句)。最初に互選方式で、参加者が「心にグッときた句」を2句ずつ発表。いずれ劣らぬ力作ぞろいだったこともあり、得票はかなり分散し、多くの優秀作品が選ばれました。つづいて、選者(ゆに会員・重森恒雄さん ゆに代表・芳賀博子)による入選句の披講。それぞれの視点が浮かび上がり、より一層鑑賞を深めることができたように思います。

ゆにゼミの閉会後は、自由参加によるフリー・トークタイム。今回は「初めて川柳をつくった」という歌人の方の楽しいご感想もあり、句会のこぼれ話に花を咲かせました。

当日の入選句です。
第6回ゆにゼミ 句会【集】入選句           2023年4月16日

◆重森恒雄 選
 
諦めるために集めている和音 菊池 京
死なせてはくれぬ集中治療室 平尾正人
足跡が輪になる冬の通学路 伊藤良彦
くるるっと集まる風のかえりみち 越智ひろ子
会えぬ人集めて金平糖とする 藤田めぐみ
   
特選
春の雲集めてつくる夢枕 西田雅子
 
◆芳賀博子 選
 
春風にならない 文字を集めても 牛 隆佑
諦めるために集めている和音 菊池 京
集まればつわ(つわぶき)は採ったか炊いたかと 北川清子
足跡が輪になる冬の通学路 伊藤良彦
五百円玉ぎょうさん集め逝かはった 川田由紀子
   
特選
全集の欠けた棚から春霞 山崎夫美子
 
【集】 互選  
 
雨の私語ころころ集くイヌフグリ 斉尾くにこ
全集の欠けた棚から春霞 山崎夫美子
流星群ひとりひとりの氏素性 浪越靖政
編集をすれば何だかいい話 小原由佳
目安箱雲雀の声もいただいて 芳賀博子
桜蕊降る集いの跡を拭うよに 越智ひろ子
国境を越えるペンギン大移動 川田由紀子
諦めるために集めている和音 菊池 京
足跡が輪になる冬の通学路 伊藤良彦
天国の集合時間大遅刻 弘津秋の子
リュックから出すほかはない全句集 重森恒雄
緑一色ブロッコリーのひとり勝ち 須藤しんのすけ
くるるっと集まる風のかえりみち 越智ひろ子
サーディーランの魚群地球は元気です 斉尾くにこ
春の雲集めてつくる夢枕 西田雅子
降りるまでジャージ集団に紛れる 武石いずみ
貝殻を拾っては捨てまた拾い 北川清子
五百円玉ぎょうさん集め逝かはった 川田由紀子
誘蛾灯浴びて無口な凸レンズ 菊池 京
柿ピーとビールと愚痴が集まる 胃 伊藤良彦
陽炎を追って収集車のうなり 山崎夫美子
会えぬ人集めて金平糖とする 藤田めぐみ
聴こえない声を集める花の雨 西田雅子
 
(まとめ/ゆに編集委員 森平洋子)