2025年2月

齢とは ほら、こんなにも綻んで
泣きながらあたためている寒月光
何度目の乾きか心濡れティッシュ

吾亦紅

身ひとつ着ぶくれたまま橋の上
食卓の砂漠削除キー早く
切実に水の傾く音がする

阿川マサコ

木のドアをなぶる北北西の風
次々と山茶花咲いてまだ冬で
独り言つづくト書きのない夜は

浅井ゆず

しゃぶしゃぶの肉の厚みや子の彼氏
しめ縄の外し時今宵フルムーン
橙の並ぶ実家の大掃除

朝倉晴美

小菊のハンカチ 忘れられて平気
スキスキのスケジュール帳から寝息
いつもいつも淡路の玉ねぎに感謝

石野りこ

駅を出る もうサナギには戻れない
自立すること諦めた試験管
もう何も期待はしないパンの耳

伊藤聖子

ジェスチャーでビールの泡を消しましょう
除雪とは宝探しのようなもの
主成分ビタミンCの人がいる

伊藤良彦

音もなく飛び散る声が突き刺さる
ノラ猫の目が論破するイデア論
転がして丸太の皮の棘潰す

稲葉良岩

浪裏に夢の在り処を見られたか
それからを追いかけている蝶々
ねえあなたピアノ連弾しませんか

海野エリー

雪虫が舌を失くして二億年
冬瓜に生まれて恋をしてみたの
裸木にアンパンマンが空見てた

おおさわほてる

冬枯れのメタセコイヤが始発駅
雪深し天人は目を閉じました
スキップの裏も表もぼたん雪

大竹明日香

マカロンのこんなピンクは許される
立ち位置に迷うホワイトチョコレート
十二年かけて明るい蛇が来る

小原由佳

逆転のチャンスを鳶に攫われる
笛吹けど踊ってくれぬ家のヘビ
ぐい吞みの底に張り付く南海トラフ

笠嶋恵美子

終わらせた指でチェリー缶を開ける
更新途中ワタクシの不等式
冬風の匂いに緩む貝ボタン

桂 晶月

なにわ橋渡ってやっと壺の底
逝かないでの間に毬が転がって
文鎮の亀鳴く春はまだ来ない

川田由紀子

焼きりんご懐柔策はほどほどに
さざ波を夕べ立てているシーツ
膨らんだ方に手がゆく福袋

河村啓子

夕焼けに恋して水中花芽吹く
リカちゃんとバリアフリーのシェアハウス
惜しまれて枯れた記憶と戯れる

菊池 京

鵯がいーよいーよと言うからね
箱庭の林の奥に犬の遠吠え
飛行機が飛んだら島に行って来い

北川清子

淋しさも零れる笑みも一人分
丸い背な光を紡ぐ日向ぼこ
君だけは乗せてあげると言うUFO

黒川佳津子

白鳥の羽根のひとひら閉ず氷湖
裂傷を冬の鏡と分かちあう
寒卵透かせば金星の軌道

黒田弥生

CMを録画できないメロンパン
マラカスの疼痛店子の呼吸法
間合いから白い巨塔に覗かせる

河野潤々

タップorクリックで咲いてゆきます
生ハムの花びら用意した返事
親近者のみにてウサちゃんのシール

斉尾くにこ

何も書いていないノートを読み返す
新年の軒下にいるニシキヘビ
指示をするときは灯りを暗くする

重森恒雄

さみしさの「浮き」が動いている深夜
故郷の兎はみんな花粉症
お手軽な嘘で毎日やり過ごす

杉山昌善

自己中な右手を左手に吊るす
ひと色の黒であの日の夜を書く
フェラガモを履いた人魚姫の執事

須藤しんのすけ

「襷をつなげ」箱根から新年へ
一夜漬け仰山詰めて爆睡し
呑助の大風呂敷に大笑い

田尾八女

呼吸する(とりとめもなく)鳥になる
羽ばたけば幅をもたないものとなる
幅のないひとと散歩をして帰る

たかすかまさゆき

前世から引き継いできた左利き
回らない時計は信用していない
噴水になるほど辛抱強くない

浪越靖政

はつはるのひかり食べてるひよこの黄
追伸が月の裏まで続いている
天秤にかける月とバウムクーヘン

西田雅子

ご一緒に、なんて絶望的なんでしょ
いびつですが月の種ですワタクシ
斧だったはずの言葉が遁走

西山奈津実

水たまり踏むカスタネットのリズムで
たまごかけごはん(別名・呑む光)
オパールをほどいて骨に組みなおす

温水ふみ

視聴覚室水仙の持ち込み可
友愛のねじれ現象餅アイス
着ぶくれて原点の樹にふれにゆく

芳賀博子

方舟にお前の影もきっとある
出来合いの嘘でごはんが冷めていく
型抜きの余白が圧をかけてくる

橋元デジタル

泣き笑いしつつ確かに年重ね
冬枯れの枝の隙間に鎌の月
一段と厳しい冬の鍋自慢

林 操

停戦のそして平和というディール
大統領の一人踊りをみているよ
自分史を子引き孫引き仕立て上げ

飛伝応

挫折したくないので夢は持たぬ主義
豊潤な海が余白の中にある
一瞬で壊れる偽りの家族

平尾正人

相棒は八十路真っ青の空仰ぐ
居眠りの蛇よ「落葉松」暗譜中
七草や固定電話のアナウンス

弘津秋の子

伴奏は離れ離れのままで良い
可動域広め深煎りは苦手
永遠の縄跳び逆さまの城で

藤田めぐみ

泣きなさい夕焼雲がつぶやいた
絶景の向こうで待っている介護
ピザ食べる行方不明になるために

藤山竜骨

とんど焼き厄飛んでいけ空の果て
カルタ取り家族みんなで大騒ぎ
入院中ベッドで拝む初日の出

堀本のりひろ

すずなすずしろ呪いをかけておきました
海賊にそっと持たせる紙袋
嘴を外して喪服さっと脱ぐ

真島久美子

しがらみを千切って突堤のかもめ
まだそこでなにやってんだかと笑う影
いい加減吐いてしまえという焚き火

峯島 妙

ウォーリーを探す正月太鼓橋
好きなもの嫌いなものを言いあって
冬雲に呑まれていった聖ヨハネ

宮井いずみ

八十の春水母の骨に出会う旅
蠟の灯で湯舟にひとり1・17
曼荼羅華晒に包むチャオの骨

村田もとこ

ぜんぶぜんぶ通りすぎたまに目があう
はじめての道なんですと言いふらす
詩を書いたりお米研いだりする火曜

本海万里絵

不調和を手繰り寄せてる胡蝶蘭
静かな夜椋鳥の去就は不明
櫻の下冬眠の穴一人ずつ

森平洋子

赤い花赤い夕焼け 淋しがり
ピラカンサ鳥に運ばれ現在地
ヒューヒューヒュー頭巾が欲しい雪だるま

森 廣子

加湿器のたわごと夜を踏破する
凍て月に吠えて相討ちらしき寂
手探りで冬の業火に立ち向かう

山崎夫美子

ノーなのにイエスと言った言わされた
藤井七冠ブラボーなんて叫ばない
潮時は今だハンコを強く押す

吉田利秋

タンチョウ輪唱 花びら雪散らす
連休ぼけをシュッと折り込み江戸小紋
情報は追わない 川は澄んできた

四ツ屋いずみ

マスクの中叫び続けるNO WAR!!
いつのまにか菱形になってる地球
おみくじの例文やけに腑に落ちる

渡辺かおる

会員作品を読む 2025年2月 山崎夫美子

第43回会員作品から

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