六月の教室に置く羅針盤
葉桜となって頭上は隙だらけ
まなじりに夏を忍ばせピアノソロ
山崎夫美子
娘からロマンス詐欺の注意受け
継続をやめて健康取り戻す
ご理解とご協力とを願われる
吉田利秋
リラ色の琥珀糖つみ春ゆらら
5センチのローズマリーとマンネリ脱皮
いまさらの懺悔 しかめっ面Moon
四ツ屋いずみ
ゴミ袋タマゴ洗剤メモを見る
薔薇開く母の白寿を待つように
ささやかに一杯注いでる希望
渡辺かおる
爪を切る音に心をひびかせる
クッキー缶子ども時代の遺書ななつ
逢いたいと春一番がやって来た
吾亦紅
息継ぎが下手な昭和の葦だから
青葉闇出でてハレルヤの声
品の良い距離感だって柿若葉
阿川マサコ
ドアオープン一番乗りは青蜥蜴
チャレンジも花粉まみれとなり終わる
闘う相手変わるだけかな生きるって
浅井ゆず
自撮り証明写真キメてハイボール
ママ友の三人円座転職サイト
新緑の風いつかみんないなくなって
朝倉晴美
開けにくいファスナーといる日曜日
狼は出てこなかった一周め
やわらかめの歯ブラシを買う梅雨曇
石野りこ
少しだけ太平洋を呑んでみる
新じゃがの皮も美味しいはずですが
諦めを強火の中に閉じ込めて
伊藤良彦
掌に飢えたまんまの蚊の目玉
五月雨にキミは笑って塩むすび
席替えで無人島に移動する
稲葉良岩
町屋復活ファンデーションぬり足して
たいそうなツンドラ地帯なる裸体
瞳孔をひらけてそれは出ていった
岩田多佳子
まだ跳べる大空広くある限り
叩くのは橋ではなくて君のドア
風薫る今日はしようか自己主張
海野エリー
青芝のどこに隠れりゃいいんだろ
ヤモリ来るあれは昨日の僕だった
田植えです一緒に埋めて僕のこと
おおさわほてる
鍋底の明るさ藤は夢うつつ
昨日のわたしへ蛇なら後ずさる
何度目覚めても取っ手も蓋もない
大竹明日香
狭間に溜まる認証コードパスコード
満月や思い違いをしてしまう
綿毛吹くたんぽぽ人(じん)という同志
小原由佳
曇天を切り裂いてゆく救急車
不時着をするには森が深すぎる
野苺を盗撮してはいけません
笠嶋恵美子
約束どおり帰りたくない小舟
戻せない悲しみは月へと逃がす
ゆっくり解く強いもの弱いもの
桂 晶月
カーテンを開けて始まる「いとをかし」
早緑を抜けてようやく最後尾
紫陽花やいっしょに濡れた雨が降る
川田由紀子
零になるまで泣いてみる歩いてみる
あなたは靴をわたしは風を覚えている
ブラウスの釦はずれて白詰草
河村啓子
理由など聞かずに月の背をさする
色違い虹に浸した付箋にて
恩師の樹揺すれば千の実がたわわ
菊池 京
それワルツ?そんな気がした八十八夜
つつじ躑躅ツツジお勝手からどうぞ
次郎くんに言っとくねって夏に入る
北川清子
立ち漕ぎの春 港まで一直線
好きだ好きだと飛び跳ねている雨蛙
骨董市 王妃の指輪並ぶ店
黒川佳津子
水無月のタスク多めのシンクかな
黒板の法話見守る沙羅の散る
梅雨の蝶あの世この世と浮上する
黒田弥生
JKは分岐最高裁は韻を踏む
大學やるじゃん黒糖のゴンドラ
水素水飲んで素足の複素数
河野潤々
カップ麺木陰の下のミーティング
乗せられて乗ってしまった浮きごこち
指の痕春がやわらかくって つい
斉尾くにこ
動かない虫の昨日と違う貌
三匹も四匹も蜂が来て歌う
初夏の望月舟が待っている
重森恒雄
血脈の重さに耐えている小枝
別れの日コートの衿のいくじなし
名画座の闇から一歩出て 真昼
杉山昌善
わたくしのからだをすこし湿らせる
ドトールに忘れた傘が残す体温
向かい合う三角押して作る密室
須藤しんのすけ
あおばずくだけがともだちだったころ
ぼうぜんとのうぜんかずらかきいだく
蟻地獄みつからなかったね またね
たかすかまさゆき
ドクダミに紛れ越境試みる
リベンジの顔でスギナが伸びてくる
チンゲンサイだけは仲良くできそうだ
浪越靖政
六月のひかりを注ぐティーポット
チョコミントにまぎれたままの春の助詞
退屈なカフカとシャイン・マスカット
西田雅子
手がかりは夏の赤からもらいましょ
海になるのはちょっと悪意が足りないの
夕焼けを揺するな星が落っこちる
西山奈津実
白昼夢を見たひとから抜けられる雨
たしかめるために嗅いで初夏と名づける
白亜紀からとった白で染めたハンカチ
温水ふみ
バービーのワードローブも荒れている
三面鏡からのそれぞれの地声
今日ぐらい有馬でごろんごろん権
芳賀博子
想定外に揺れるほか無し水を飲む
過ぎ去ったことは覚えていない振り
後ろ歩きに適した靴を持っている
林 操
値上がりに米粒ほどの下がりよう
うっすらと履歴不明なシミと老いる
前向きに真摯に善処した結果
飛伝応
大きくなり過ぎた身の丈の丈が
面影を残して老いるクラス会
ウォーキング足と頭が揉めている
平尾正人
手作りのアップルパイの幸福度
ホケホケキョ若い声だなまた明日
赤十字病院満車の春である
弘津秋の子
黄昏のサラリーマンを入れる箱
メモ帳に阿呆と書いている阿呆
おはようと言えば終戦に向かう
藤山竜骨
赤白紫アレンジ見事芝桜
風薫る大空高く鯉泳ぐ
妻の弁当愛が一杯世界一
堀本のりひろ
眠剤は不要 相対性理論
手で閉じる瞼を風がかっさらう
心臓ですかいいえオムライスです
真島久美子
正解はあるかふふふいい夫婦
駈け出そう若草色をほおばって
ややこしい話は苦手春キャベツ
峯島 妙
夏空の股間抜かれた三塁打
さいころはいい人嫌いハグ嫌い
近道と思った仮想カフェだった
宮井いずみ
光るほど私がかすむイヤリング
SNS離れひたすらマンダラ塗り絵を
ふっくらと御飯焚き上げおりん打つ
村田もとこ
思い出の原型がもうわからない
やっと会える切符を空にかざしちゃう
あたためるいつか壊れてしまうもの
本海万里絵
プラタナスの並木 漂泊の尻尾
遠雷のプレイリストを寝室に
Tシャツの解像度を上げて立夏
森平洋子
八万四千有る煩悩が私にも
墓石の隙間忘れずスミレ咲く
ふらふらと行ったり来たりして戻る
森 廣子