立秋の炎暑に急ぐことはない
釈明も抗議も同じ顔で云う
クシャクシャのマスクよ済まぬことだのう
飛伝応
放物線も楕円も根性で曲がる
騙された気がするそんな日のワイン
吹き出した汗は素直で優しくて
平尾正人
早起きのラジオ体操チャンネル2
仲よしもケンカ相手も消去中
山手台夕焼けの坂登りきる
弘津秋の子
好きにするわパクッと魚肉ソーセージ
しらたきの所在のなさが決め手です
Coming soon 口をおの字にして待とう
藤田めぐみ
妖精と写る一枚だけの過去
半身は陰にセカンドオピニオン
まず白湯をひとくち一日が動く
藤山竜骨
お若いねためしてみると聞き返す
羽生くんよりも小さく載ったウクライナ
内視鏡検査木っ端微塵の自尊心
堀本のりひろ
あなたと語らうサワヒヨドリの道
熊避けの鐘カラン山葡萄ジュース
また会いましょうヒツジグサ開く頃
宮井いずみ
おはようと全身麻酔から醒める
いったんは無色になってところてん
子を齧る卒塔婆小町のぱぴぷぺぽ
もとこ
きみの絵はへいわな国からの手紙
ちゃかしたりふざけたりして朝を待つ
さびしさも気に入っている長い影
本海万里絵
蝉喧しく切株に一人居る
トントントン台所から朝が来る
夏の色ぜんぶ足したら影法師
森平洋子
炎天へ渡したくなる果たし状
石臼の役目を終えて草いきれ
夏空に預けたままの避雷針
山崎夫美子
プルプルをいっぱい作る夏休み
プルプルをどうぞどうぞと渡される
背中にはプルプルシールついていた
吉田利秋
届かない不調歯医者にもお空にも
長すぎる午後にバニラ香の湿風
ベランダの月とサイレン夏たたむ
四ツ屋いずみ
この穴もアンモナイトも未然形
ビッグバン綺麗な箱に降り積もる
後光にも見える私の黄信号
吾亦紅
桃の木の下に集まる夜の桃
嘴まで食べられますよ猛暑です
酒で洗う傷のそこここ晩夏光
阿川マサコ
おはぐろとんぼ一度出会えば二度出会う
昼寝覚にがうりがまた太ってる
木下闇 神にとんとんされました
浅井ゆず
中東の十六夜君は見つめる
中東の雲海に泳ぐ我と月
南アフリカへ伝書鳩父の告白
朝倉晴美
枝豆を冷凍にする罪があり
穏やかに南瓜の蔓が踊る庭
ストレスが茗荷畑で立ちつくす
伊藤良彦
カレンダー捲るあわだつ青い海
まなかいの青い海ふと巻きもどす
青い海にめぐり逢いたい月球儀
岩田多佳子
百年後は向日葵だけの迷路かも
生きるための答え探しに野球帽
加齢という切符いただき岬まで
海野エリー
カタツムリ海を見たくて木を登る
この手紙向日葵畑を抜けて来た
頬寄せて露草だけに打ち明ける
おおさわほてる
道行きへ当たり馬券を抱きしめて
日にいちど隈取りしつつ見栄を張る
ヨーソロー!そろりとかわすフリージャズ
落合魯忠
洗濯機の渦を見せてるレトロ館
うなだれていたのはあの時のリボン
開閉が自由で発想も自由
小原由佳
線状降水帯へ向かって案山子 矢を放つ
一碗の水をわけ合う終戦日
淀川の鰻でお茶をにごされる
笠嶋恵美子
おーいおーい噴水天に届いたか
三度目の夏も飛ばない極楽鳥
星が出るまでの夕暮れ貰います
川田由紀子
冷や麦のどこを切っても花折峠
翡翠茄子たんと冷やして原爆忌
四等分しなさい茗荷なんだから
河村啓子
畳み皺ついた祭をそっと出す
敗因は解凍時間読み違え
ピクルスの隙に相席探す癖
菊池 京
三重苦四重苦ただ桃のパフェ
夜の秋黒毛氈を片付けず
今朝の秋今朝の竹和紙今朝の墨
北川清子
さり気なく風を送ってみる扇子
山ほどの言葉に代えてぎゅっとハグ
しみじみと寂しい夜の星座盤
黒川佳津子
トロンボーン伸ばした先の鳩居堂
ヘタレでも修復いらぬ鳩時計
パを包む拍手となりは見得を切る
河野潤々
飛魚にならぬ鰯のハンモック
脱皮するおにぎり羽化をする移住
被害者と加害者ヒレをはためかせ
斉尾くにこ
すいちゅうでいっきにそせいする丹果
鎖骨の水の折れっぷり泣きっぷり
牡丹から萩の月からミヲマブス
澤野優美子
モナリザの後で穴を掘っている
帽子のとげをとげとげにして被る
薬飲む若草山は燃えている
重森恒雄
椅子に立つ高いところで好きと言う
ホームズとおんなじ滝に落ちてみる
故郷の夜は田螺も泣くのです
杉山昌善
back number 聴きたい夜がやって来る
ガンダムの冷たい青に「ファ」を隠す
二十五時寝落ちのスマホから吐息
須藤しんのすけ
天井にあたってしまうボクの夢
どの指も失敗談をもっている
もう一度金魚すくいで出会いたい
妙
ミルフィール崩し傷だらけの対話
まだずっと夢の途中でいいじゃない
視野の端レモンがあって朝がいて
西田雅子
アイロンの蒸気の先の羊雲
これだけは言うておくとか萩の庭
彼岸よりスワンボートの帰りくる
芳賀博子
墓じまい消化不良の夏がゆく
雷鳴に河童お家が分からない
蜩のなく頃そっと父帰る
林 操