2022年12月

空き瓶に夜空が満ちる十二月
ときどきはカモメに乗って帰ります
冬銀河シュガーポットへ零れ落ち     

西田雅子

鎮魂にこだわり抜いた設計図
文例集ビジネス版の冬雀
もう一度バイバイ吹き抜けの聖樹

芳賀博子

山門の彫刻彫り師のノミの音
張り出した根っこ足元ご用心
頬の腫れいらぬ詮索しないこと

林 操

都度都度の信号にある待ちぼうけ
余裕かましてスマホとともにこけるべし
時計より正確にくる路線バス

飛伝応

ハードルを上げると今が遠ざかる
都合のいいロマン言い訳ばかりして
私の生息域にない景色

平尾正人

「おばあさんですから」今日の決め台詞
薬漬け薬の名前うろ覚え
外せないマスク 回転する時代

弘津秋の子

アドリブの甘噛み抜き差しならなくて
乱丁のはざまにシュレディンガーの猫
さよならするよメレンゲクッキーになって

藤田めぐみ

ナスダック暴落 亀は子を乗せて
コオロギが喉から落ちていく滋養
キムタクになりたい信楽の狸

藤山竜骨

松籟に心酔わせてひとり酒
お釈迦様迷える人が此処にいる
片意地をツッパリ通し団子虫

堀本のりひろ

少年を謳うなシナモンを消すな
オノマトペ集めて賑やかな焚き火
カバの凪子を紐解けばバニラ味

宮井いずみ

冬の虹寂しくはない一人旅
銃口は我に向きたり百合の花
今日も産む川柳という無精卵 

もとこ

いつの間になくなりそうでいま捨てる
おやすみがさよならになる日がこわい
ToDoリストこなしてく空がきれいだ

本海万里絵

どんぐりの伝言ゲーム冬はまだ?
だんだんと和音になってゆく一人
金色の山を指揮する鳶が飛ぶ

森平洋子

土塀に続く秋をくぐれば庵主住む
落ち葉踏む音が耳塚眠らせぬ
ススキヶ原に鬼放たれて月を待つ

山崎夫美子

版画家から声がかかった二人展
友だちはエレベーターと手すりだけ
負けそうな将棋で打ったホームラン

吉田利秋

何をそんなに明け方のクラクション
レモンケーキでととのえる不正脈
酵母菌の独り言をリツイート

四ツ屋いずみ

お悔やみ欄おのれを探す影じまい
何をしていたのだろうか喪が明ける
床の間に置かれたままの途中下車

吾亦紅

霧わいて夢より遠く行っちまう
うそ寒きビスケットならここよここ
火に集う者ら明日を消しすすむ

阿川マサコ

こうみつのリンゴ今宵は星が降る
ちょっとした突き指ちょっとした失恋
蛍光灯のような脳だが愛おしい

浅井ゆず

十一月一日南米のクリスマス始まるよ
ジャングルの一本道わたくし五十路
アマゾンの乗り合いボートは超満員

朝倉晴美

秋の日は阿諛追従がふさわしい
反論は言わず納得とも言わず
神様がYESと言えば僕は木偶

伊藤良彦

何遍も効いたころんとした造語
木箱にはパラレルワールド入り浸り
「あとがき」にすっとんきょうな丸ひとつ

岩田多佳子

これからへ皆既月食も一瞬
君という新しい風冬の映画
透明な海息継ぎすればすんだこと

海野エリー

オリオン座たった一人の誕生日
オリオン座下北半島浮上する
傀儡子の指が奏でるオリオン座

おおさわほてる

キリストの所望の歌手は天地真理
カラフルな老婆の引いたあみだくじ
顔面に引っかき傷の流れ星 

落合魯忠

ムフフっと美容クリーム足している
ごめんねと言ってくるまで雨降らす
順調に日暮れて値引きシールかな

小原由佳

蒼天を突きさすように鵙の声
潮時を逃せば長い冬になる
壺ひとつ吞み込んでいく収集車

笠嶋恵美子

蛇口からケチャップが出る菊日和
ソックスを三足重ねている河童
笛の音が聞こえるあれは流星か

川田由紀子

晩秋の果て大仏を蹴飛ばす
月までも星までも食うギムレット
満月にイナビカリ産む高齢者  

河村啓子

カッターの折刃はラスト 十二月
使われぬガムシロップの透明度
疼き出す過去から借りてきた言葉

菊池 京

衝動は絵筆の運び十三夜
どこまでも君と一緒じゃ無いからね
さらけ出すこの身体から赤絵具

北川清子

炒り銀杏 弾けて止まらない本音
「わからない」なんて言えない青蜜柑
スポットライト村人Bの上に降る

黒川佳津子

小脳はへはとにいろほハッシュタグ
落葉松のチルチルミチル始発来ぬ
成長痛遠のく小顔交換所

河野潤々

アルペジオかすかグラスのゆりかごへ
かぷかぷと笑いあってる浮いている
読みかけの秋へ入ってきたテクノ    

斉尾くにこ

泣けないじゃない木彫りにされた昨日から
おなもみをくっつけあって他人ごとね
両手にもらうお手持ちのアイシテル

澤野優美子

朝に咲く花が咲くまで起きている
ぬるいコーヒーの難解な詩の香り
声援をしていただくとサードゴロ

重森恒雄

もがり笛月光仮面なぜ白い
欲望の零れる君とする昼寝
「浅はか」を旗印にし天高し

杉山昌善

坂道に置くアイドルのパスポート
朝焼けに吸い込まれてく月曜日
KONNAYOHA、YOSHIIKUZOUNO「SAKEYO」WOUTAU。

須藤しんのすけ

ジーパンに書き込み過ぎた時刻表
クレヨンの青がつぶれて泣いている
あの頃が落ち着く先の砂時計

総 評 2022年12月 芳賀博子

会員作品第17回をお届けします。

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