時計はずしたことを裏切りだと言うか
村井見也子
考えてみれば時計とはモノでありながら
あらゆるコトの象徴でもある。
本作では、時計すなわち約束と読んだ。
いつまでもかなわない約束。
主人公は待っている方か、待たせている方か。
そしてもう反古にしようと。
では相手は誰だろう。
句のまとっている艶やかさから
恋人の姿を浮かべつつ、
複数の同志などにも想像がいたる。
さても、時計をはずしたことで
「裏切り」と糾弾される関係性が
張り詰めていてドラマチックだ。
また、「言うか」という措辞に
さまざまな含みがあり、
その問いが不意に読み手である
私自身に向けられているような気もする。
出典は村井見也子(1930-2018)の句集『薄日』で、
序文・定金冬二、跋文・北川絢一朗。
著者は長らく京都を拠点に活動し、
本書、1993年に新潮社から発行された
「短歌 俳句 川柳 101年 ~1892-1992」では
1991年に発行された川柳句集の中から、
「その年の一冊」に選ばれている。
風花や離れ離れに炎を作る
鍋一つ遺書のかたちに置くときも
客用のふとんで弟を泊める
介錯はだれであろうと双乳房
教会へ行く日曜のかくれんぼ
(句集『薄日』 村井見也子 私家版 1991)
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