ちんちん電車 利休の横が空いている
本多洋子
本作は大阪人や鉄道ファンの方なら、
より「ああ」とにっこりうなずかれるかもしれない。
大阪府下でも唯一、路面電車の走っている路線がある。
大阪市と堺市を結び
創業から110年を越える歴史を持つ阪堺電車で
今も地元の生活の足でありつつ、観光客にも人気とか。
実際、私が神戸から堺へ出向く折などは
乗るたびにいつも旅行気分になる。
たった一車両の電車で
風情ある堺の町並みをのどかに楽しめば
つかのまの電車旅だ。
さて、堺といえばご存じ千利休。
堺に生まれ、そのドラマチックな生涯の大半を
堺で過ごしたことでも知られるが、
掲句、「利休」は利休のような人、
というより、本人がひょこっとワープして
ちんちん電車に乗っているようで可笑しい。
せっかく横が空いているのに、
座るのにちょっと躊躇されるのは
利休のそのちょっと圧のある風貌に
気圧されているからかしらん。
・・なんて、句をながめていると、
すぽっとした一字空けが
席の空きのようにも見えてくる。
さて、作者の本多洋子氏は1935年生まれ。
幼少から青春時代までを沿線で過ごし、
エッセーでは、このちんちん電車を
愛をこめて「積木のような電車」とも表現する。
氏は長年、墨作二郎氏の「点鐘の会」を支え、
個人でもブログその他で積極的に作品やエッセー、
示唆に富んだ川柳論を発信し続けておられたが
今年1月に永眠され、本当にさびしい。
結社、グループの枠を超えて
周囲にも「洋子さんには大変お世話になった」という方が
たくさんいらっしゃるが、私もその一人だ。
かつて点鐘の会主催で、毎月関西の各地で開催された
誰でも参加自由の出句無制限吟行「点鐘散歩会」は、
まこと刺激的な荒行の場で、もはや伝説。
今、堺での吟行に参加したときのことを
思い返しながら、久しぶりに、
ちんちん電車に乗りたくなっている。
もし利休の横が空いていたら、
迷わず座るつもり。
(「川柳サロン 洋子の部屋 Part3」
本多洋子/私家版 2015)
過去ログはこちらから▶