Vol. 173 風呂敷 

風呂敷の起源は、奈良時代にまでさかのぼるといわれている。正倉院宝物の中には、舞楽の衣装を包むために用いられた風呂敷が残されている。

室町時代に、将軍足利義満が建てた大湯殿と呼ばれる浴場を大名衆が利用した際、他人の衣服と紛れないように自身のものを家紋入りの布で包み、入浴後にはその上で着替えを行ったのが始まりとされている。

平包(ヒラツツミ)などと呼ばれていたが、当時の蒸し風呂では、床に布が敷かれていたため、風呂敷という名称の由来になったと考えられている。

江戸時代に入ると、銭湯の誕生によって風呂敷文化が市井にも普及する。また、防災グッズとして布団の下に敷いたり(火事が起きたらすぐに必要なものを包んで逃げられるようにするため)と活躍の場を広げていった。

さらに、宣伝広告としての役割で有名なのが、京都出身のある百貨店の創業者が、江戸での商いを成功させるために、萌葱色の風呂敷に商標を染め抜き、これに商品を包んで江戸に送ったところ、この派手な風呂敷が目を引き、たちまち話題となった。

古くから、日本では物を布で包むという行為には、穢れや邪気から守るという意味もこめられていて、風呂敷の文化に継承されている。

 風呂敷に老いを上品につつむ  野沢省悟