2025年5月

シニアカー暴走してはいけません
傾聴をほめてもらってから無口
おばあさんに席譲られた春のバス

吉田利秋

かつてあったもの丸い陽ざしの香り
宝石箱のふたに妖艶の余薫
なんならばお呼びしますか高揚感

四ツ屋いずみ

朝起きて頸動脈に触れてみる
剪定とノコギリペンチ我がする
春ポストそらいろの空届けます

渡辺かおる

寒さにはユーモア、暑さにはパズル
祈りとや貼り付くように手に馴染む
私の影絵 ゆらりとうすみどり

吾亦紅

辺境のポストぶっきらぼうにいる
蛍烏賊の目玉をはずす日が暮れる
死の淵はどこかと惑う宿の傘

阿川マサコ

いいわけがヘタでこげつくフライパン
運つかむための片手は空けておく
愛されるため少しだけ空気ぬく

浅井ゆず

還暦に電動自転車賞与なし
Z世代早期退職論破する
女三代自転車花見

朝倉晴美

摩耶山も六甲山も読書好き
錨山の笑顔 問題アリですね
引き出しにひっかかってる月見山

石野りこ

春泥の味をなくしたガムの色
レシートの裏に丸めてある慕情
振り出しに戻るサクラの木の葉っぱ

伊藤聖子

言い訳はロールキャベツに似ています
クリームシチューみたいな傷の癒しかた
ポタージュにすると自由になりました

伊藤良彦

大海を想う木魚の窪んだ目
風はまだ名前を付けぬ無垢の影
笑うしかない場で握る果し状

稲葉良岩

しゅくしゅくと命日の糠床に入る
らしい人でしょ無敵の実たべたでしょ
現代詩にしてはキャベツ剥いている

岩田多佳子

分度器で測る風向き愛情度
透明な耳へバラードの応酬
うす味の過去形になる母の夢

海野エリー

気持ちなら少しあります菫です
親父の手ぱっと開いたたんぽぽだ
木蓮は白従えて白となる

おおさわほてる

耳も目も閉ざして自転してるのね
頭痛だね目眩だね地軸ずれたね
酔い止めにどうぞ銀河の苦い水

大竹明日香

封筒にヌカ喜びが入ってる
じゃがいもがあって何とかなる気分
この庭でよかったと蕾膨らむ

小原由佳

眠りにはつけそうもない赤い月
決断の甘さをわらう飛行機雲
紙切れになってしまった誓約書

笠嶋恵美子

再会の日の青は絶滅危惧種
方舟に乗った月のような人と
「しあわせ」をちっちゃくみっつ試し書き

桂 晶月

桜が散って軽い葛籠を開けてみる
言霊にぱらり伯方の塩振って
サバサバと卒塔婆小町になっていく

川田由紀子

椿になった室長の首
右向けと言われて右を向いた首
うなだれて咲く花もあり春は春

河村啓子

だから嫌だった推奨パスワード
ザッザザザFAXで来る一行詩
ニセアカシア遣らずの雨を呼ぶ呪文

菊池 京

天と地の間に絵筆走らせる
五月晴れ空を飛んでけ三つの絵
ローマにて待ってるママはあわてん坊

北川清子

鳥になる夢が膨らむ紙風船
哀しみならさっき畳んでおきました
何度でも結び直してくれた君

黒川佳津子

薄緑から啄む五月の円周
スプリングコートはためくたび蝶語
うすべにのマリアのつま先を見上ぐ

黒田弥生

肉体を抜けた名前のうしかい座
鼻歌になびくキツネと見つめ合う
朽野に轍モテるね、わたしたち

河野潤々

オーロラを湯船は突き抜けていった
表面をさっと炙って禁足地
夕暮れの愛は適温居残り中

斉尾くにこ

疣を取る歳相応の悪性度
おろおろと廃校の桜見に行く
笑いだす温かな樹の本籍地

重森恒雄

結ばれて無色になった赤い糸
迷うなあ中途半端な向かい風
未練なし駅の名前も消えている

杉山昌善

メールには書くことのないさようなら
「昨日、何食べた?」って、今日三回目。
新しい形の拷問始めました

須藤しんのすけ

わたしからとおく離れてわたしの影
晩春や順番に影法師になる
はつなつに燃えている影おどる影

たかすかまさゆき

少し遅れて股関節にも春
氏素性わからぬ猫と暮らしてる
由緒正しきハシブトガラス

浪越靖政

悪意など蝶々の翅のうすさほど
再開発泡石鹸に包まれる
眉を引く地平線まで伸びてゆく

西田雅子

結び目をほどけば春はやってくる
還ろうとすると梯子はずす月
夜が生みおとす尖ったままの朝

西山奈津実

サボテンにぬるい真水をわけてやる
波がくるぶしにふれたがる どうぞ
ハナミズキそれは食べてはだめな骨

温水ふみ

二人して謹慎明けの苺フェス
サボテンも巻き込んでいる読み合わせ
御神牛つるんと撫でてみんなチャラ

芳賀博子

過ぎ去ったことは忘れて芽吹くとき
希望の欠けらお花屋さんのいい匂い
どこまでもついて行きます芝桜

林 操

あるいは下着ひょっとしてパジャマ
なんなら蹴破ってください避難板
「還付金アリマス」そっちの水は酸っぱいよ

飛伝応

参拝の目に鮮やかな花手水
アトピーかもしれない耳が切れている
苺舌見て考える治療法

平尾正人

春霞後ろ姿の娘たち
五、六回今日の日付を確かめる
天秤とトライアングル守り札

弘津秋の子

扉から扉は咳払いで開く
天職はあちらの穴も埋めている
切符手にしてアナログの逃避行

藤山竜骨

甘ったれのわが娘(こ)一人前の社会人
孫五人出番なしです雛飾り
君の笑みに捕らわれ魂が宙を舞う

堀本のりひろ

顔面にハングル文字を貼り付ける
串刺しにしておく否定的意見
メンタルを言うなら蒟蒻に負ける

真島久美子

緑黄色野菜という金縛り
鼻歌もきみはやっぱりボヘミアン
叶わない夢をくるんだオルゴール

峯島 妙

賢治へのオマージュ旨辛だれの韮
かぶと煮の目玉食べる派なぞ旅派
うんうんの語尾に蛙の目借時

宮井いずみ

春の庭神父奏でる「愛は勝つ」
もう少しと思うところでカツカレー
母の日や夕暮れ色の紫蘇ジュウス

村田もとこ

奇跡だと思ってるのはあなただけ
かくれんぼするの見つけてほしいから
ないしょだよかばんにぬいぐるみひとつ

本海万里絵

辻褄のすき間を埋めるイヌフグリ
前頭葉カートリッジの交換期
赤錆のブランコの音きしむ空

森平洋子

快感は春の日向の読書中
試作では上手に出来る苺ジャム
救済の言葉素通りさせた耳

森 廣子

傍観者だったノートの片隅で
炎上の前触れ月が崩れゆく
まろやかな光り増幅する痛み

山崎夫美子

会員作品を読む 2025年5月 芳賀博子

第45回会員作品から

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