本を繰る本は翼を広げだす

面長な雨 返信の薄化粧

春の果て嵐が丘に駐車する

斉尾くにこ

はつなつの水に映っている僧侶

スコーンにはじいちゃんらしい赤いジャム

あさってをしずかにつつむ離縁状

澤野優美子

ポイントがあるうちの春の面影

茎はともかく蘇る黒法師

夏が来るたった一人を失って

重森恒雄

深爪の訳を問われる父の日よ 

この次は有袋類で生まれます

花に酔う不思議は不思議そのままに

杉山昌善

千の手を伸ばす絵本の鳥逃げた

ねぇ〜ねぇ〜ねぇ〜、早くキスしてここでキスして。

だらしない男 気前のいい女

須藤しんのすけ

満開になるまで素性明かさない

ぽろぽろとエンドロールからおとこ

天国も地獄もQRコードから

浪越靖政

借りてきた明日でいっぱい額の中

この先の虚無に蛍光ペンを引く

荷をほどくように花びら散ってゆく

西田雅子

マッシュルームは夕焼けよりも饒舌

蜜のように裂けめに入るワザワイ

空がたためぬからかたづかぬ春

西山奈津実

新じゃがをまるごと平和利用する

うたた寝を飛び立ってゆく青蜥蜴

海までの直線距離にして薄暑

芳賀博子

一斉にマスクを外すホイッスル

チャンスには綿毛に乗って飛び出なさい

初夏の装い思わず二度見してしまう

林 操

引きこもりから出て行けば使い捨て

高揚感がヤバいぜここは行き止まり

絵を描いた男の舌打ちを聞いた

飛伝応

火葬場の火力を上げられぬ事情

長針の憂いと短針の焦り

斜線また斜線いらないモノばかり

平尾正人

名付け親要りませぬ薔薇園の薔薇

生き切った躑躅よ毒舌に負けぬ

ざわざわの五月おなかのすく五月

弘津秋の子

好きだったふわりと矛盾まとう人

酔い覚めのプリン涙のピューレ添え

さすがねと言ったら寂しそう ごめん

藤田めぐみ

讃美歌にハモる菜の花揺れている

密談をサプリメントにしましょうか

検査値に怯え検索して怯え

藤山竜骨

あの日からひっつき虫になりました

震度五情けないけどダンゴムシ

ひそひそひそ私の耳が象の耳

堀本のりひろ

オチのない母の話と猫のひげ

ふかふか派カリカリ派にもあんバター

もう少し頑張ってみる基礎英語

峯島 妙

苺のコンフィ落ち込んでいいんだよ

雨の日の卵サンドはだし巻きで

潮風を浴びてヨットになる扇子

宮井いずみ

アマリリス言いたい事は一つだけ

Mixedと記されたチャオの診察券

イケメンのゴリラゴリラゴリラの写真集

村田もとこ

8畳のタイムカプセルに住んでます

輪郭を脱いだかたちがたのしそう

さいばしでパスタ食べちゃうずずずずず

本海万里絵

稜線の仮縫いほどく夏支度

見上げれば金魚ひらひら青嵐

あるはずのない傷跡を指は知る

森平洋子

見開きの花野に初夏が横たわる  

ドクダミの白へ宛名のない手紙

藤棚の下で鬼面にすり替わる

山崎夫美子

汚染水薄めてみても汚染水

侵略者の戦車に投げる火炎びん

ウラーッの叫びお日さま消えて行く

吉田利秋

ちりとりに残るいろはをダーニング

引き潮にさらわれてゆく笑い声

新緑くぐるインサイドまで緑化

四ツ屋いずみ

冬布団の中わたしを畳みます

ポケットにマスク残して衣替え

贅沢も節約もせず今になる

渡辺かおる

水匂う ほら、点滅の天の川

逝きてなお生を問うてる水しぶき

次ページは揺れあじさいの銀河系

吾亦紅

無濾過発泡老翁の杜若

煮えばなのどぜう一列まどろみぬ

はつなつの森ぱんぱんの寓話かな

阿川マサコ

余生晩年老後なんとでも言って

伸びすぎた蕨 返事はまだ来ない

雉がケーン鶯ホケキョ 眼がかゆい

浅井ゆず

レイチェルごめんトランジットはパリの夜

五月雨贈るよ君に南米に

午前四時靴紐固くコーヒー温く

朝倉晴美

褒められて脱力感に襲われる

プラモデルみたいに語る組織論

現場から距離を置いたらただの猫

伊藤良彦

幻影をひょいと引き留め脳に問う

危なげな恋がしたくて猫を飼う

B面で踊り幽体離脱する

稲葉良岩

係累のシュッとふきでるボトル缶

とろとろに暈ける満月ひとつぶん

それゆけ荒野青リンゴ真っぷたつ

岩田多佳子

持て余すスランプ赤い薔薇伐って

水海月くよくよしないが合言葉

脱皮せよ見えない壁があるらしい

海野エリー

燕飛ぶ運河は折れる直角に

恋してる青葉若葉よ胸を張れ

髪洗う大海原に鯨来る

おおさわほてる

まちがって乗ってしまった紙の舟

生真面目に穴はゴホンと咳をする

バラ咲けば庭に渦巻くナルシスト

落合魯忠

かつ丼を追い詰め勝利至上主義

淡水魚のままで都会に来てしまう

つるバラの個人プレーが止まらない

小原由佳

野苺をふふめば戦よみがえる

牡丹散るへびが衣をぬぐように

灯を消すとくくっと笑う造花たち

笠嶋恵美子

ラーメンの鳴門の下のパスワード

姉様は日傘の中で棘を出す

六割で生きております鹿が鳴く

川田由紀子

ダンゴムシになりそう夜更かしをしそう

古ぼけた眼を洗う青紅葉

空を飛ぶ車でちょいとあの世まで

河村啓子

箸置きだなんて宣戦布告だな

始発バス洗い流した酸性雨

ソファーの凹み陽だまりの指定席

菊池 京

この花を雑草などと春の果

さっと口紅合図二度ほどあれば

三夏にはカーブミラーを配置せよ

北川清子

水羊羹 そろそろ本音出るころに

私まで加えられたか頭数

砂漠の真ん中で君を待っている

黒川佳津子

本降りの著作権になれる立夏

すずめのおしゃべり若芽をついばんで

ノールックパスへの日脚がみじかい

河野潤々

2023年6月の会員作品を読む 「西田雅子」

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